FOU’s blog

日本の大学 今 未来

【短編】春節の訪問者

先日おこったできごと

なんでアリラン

ちょっと前、オフィスの近所の韓国料理屋(一応仮に名前をアリランとしておきます)から電話がかかってきて、『今店に中国人の人がきていて大学のことを知りたいと言っている、店主?が連れていくから話を聞いてあげてくれないか?』とのこと。で、筆者から『こちらは入試の説明のできるスタッフはいないしサポートできることはありませんよ』といっても『それでもかまわない。私(韓国料理屋店主)が連れて行くからお話を聞いてやってくれないか?』と言われ『その人たちは英語でお話ができますか?』と聞くと大丈夫のようなのでお引き受けすることに。だいたいこの謎に満ちた韓国料理屋が紹介をしてくれる中国人の受験希望者というのは危険な香りが満ち満ちていますが、他に対応できそうな人もいないので筆者がお話を聞いてみることにしました。

四人連れ

しばらく待っているとやってきたのは、どうみても観光・物見遊山の中国人四人で50代男性、30代女性、それに未就学児が2名の構成。韓国料理屋店主さんはバトンタッチしてよろしくと言って去っていきました。大学というものは、どこでも地域と世界にも開かれたものですので、冷たく塩対応するとSNSに取り上げられたりしますから気をつけなければなりません。で、お約束どおりというか、彼らの英語の能力は非常に残念なレベル。彼らの持っている android スマホの翻訳機能(どこのエンジンかわからないが簡体字・日本語との変換はあまり良くない)と筆談により(元気に子供が走る回る中)お話し合いに。

で、日本の大学で学ぶことを希望するのは30代女性。最初は大学で学びたいという幅広の言い方でしたが、中国の経済・商学系の大学を卒業しているようなので、日本で学ぶんだったら社会科学系の大学院の方が良いのではと提案。ただ、その前に、彼女の日本語・英語能力には課題があるので、中国か日本かどこでもいいけど、まず、日本語を学べる学校で勉強してN1の能力にならないと大学院受験資格を得ることができませんよ、と説明。実際話してみた際の感じでは、年齢上の課題もあり(一生懸命がんばっても)N1を取るには少なくと2年は必要な印象。国費留学生etcの対象でもないし実際のところ日本の大学での学びは厳しそうに感じました。それでも日本の大学に関心をもってもらうことは悪いことではありません。

また、男性の人ともお話をしましたが、筆談の結果、どうも某国家重点大学の法学部を卒業しているよう。お仕事は官公庁関係で経済法?に関連したしたことをやっているご様子。50代半ばで中国の評価の高い大学を卒業してるところをみると(見た感じはアレでしたが)かなりのエリート層なのかもしれません。筆者は適当に『それはすごいですね。国家重点大学・211行程の大学はとても優れていると聞いています。清華大、上海交通大、同済大、復旦大などいろいろお世話になっていますよ。中国にはとても良い大学がありますね(完全にテキトーにヨイショ)。折角日本にいらしたんだから、京都や東京にも良い大学がありますから是非訪問してみてくださいね』と、お話は盛り上がります。

こんな世間話を一時間近くして、大学のパンフレットとか渡してあげたら大喜び。あなたはとても良い人だと言ってくれて写真を一緒にとって握手して帰っていきました。まあ、日本に観光ついでにやってきた中国人旅行者に優しく接してあげる大学は皆無だと思います。グローバル化という言葉遣いも陳腐ですが、どこの国の人にも優しく接してあげることが、遠回りですが日本の大学を知ってもらうことになれば思います。大学の職員も国際部門でなくてもどこの国の人とも普通に接してお話が聞けるコミュ力はもっておくほうが良いと思います。がんばりましょう。

筆者の中国観、大学関係で会う人はみんなとても良い人ばかりで親しみを感じます。どっちかという党と政府がねぇ、特に周庭さんに大人げない意地悪するのはやめてもらいたいです。

 

 

【雑学】大学教員の割愛依頼って今後どうなるのか少し考えてみる

割愛のお話はかなりオタッキーです。ただ日本の大学の伝統文化の一つ。筆者も若いころ初めて見た際にはへぇーという感じでした。

はじめに

割愛(依頼)とは、違う大学で働こうとする大学の先生について、採用が内定した大学側から現在勤務中の大学に『この人ください』とお手紙を出すこと。

割愛依頼をおこなう意味

わかりやすい事例(たらればのお話)でいうと、九州大学大学院工学研究科の教授職の先生が東大大学院工学研究科の教授職へ何らかの理由でポジションが移るような場合、東大側は総長名で九大総長あてに割愛依頼書を送ります。なお今現在、多くの大学では管理部門・教育研究部門を分離していますので、正確には総長・学長ではなく大学法人代表者の理事長名で相互にやり取りすることが多くなっています。ですが、少々発送者・受信者が違っていても咎める人はいません、送ることが大切。

表向きはこのようなセレモニー?がおこなわれます。割愛の事由は、基本的にはなんでもOK。先方の大学に引き抜かれる場合もあるでしょうし、教員自身の勤務地を変えたい、家族問題等々千差万別です。もっとテクニカルにいえば、割愛される側の大学で優秀な准教授の先生がいたとして、依頼元の大学で教授ポストの空いているのを事前に察知し、水面下で交渉して教授昇任させる手段としても使えそうです。

割愛とは異なりますが、似たようなわかりやすい話として、今でも行われている国立大学間での異動官職のような人事交流なんかも(国立大学同士なら)どこに行くにしてもしっかりとそれなりに計算し算定された給料をもらえる時に役立ちます。このあたりをみていると大学ではなくて文科省機関内というさらに大きな袋として割愛のシステムは合理的だったのかもしれません。※今現在、文科省やJSPSのような独法でも、大学との間で係長職のようなポジションでの人事交流を行っていますが、私大の場合の算定は結構大変だと思います。

で、その割愛依頼の書きぶりはだいたい決まっていて、『貴学の〇〇教授を、〇〇年4月1日付けで本学工学研究科教授として採用したいのでご承認お願いします』的なもの。そんな人事案件でもあるので、ちゃんと理事長公印が押され、契印も入れ、文書番号をとっている格式あるものにし?、受信側には、大学として『割愛承認しました』の依頼に対する回答書の送付が必要となり、合わせて人事記録(写)の提出も良くあります。人事記録も近年いろいろ変わってきていますが、国家公務員の教育職時代であれば、何時採用されて、今現在教育職俸給表〇級〇号でお給料がでていて、それに加え地域手当や教育・研究内容等々で俸給調整されて支払われている情報を網羅、賞罰等の記載もあったりします。こんなこと、例えば、民間でA銀行からB銀行に転職する人がいたとして、元の銀行に転職することを承認してくれ、今までのキャリアや給与がどれくらいだったかも教えてくれ、のような個人情報管理上ありえない話が大学ではまかりとおっています。確かに個人情報上やってはいけない気もします。

そんな割愛依頼の制度にもメリットがあって、他機関(大学)がオフィシャルに人事上の要望を今いる大学に言えること。割愛される教員も退職する理由が明示できてごちゃ言われることもなくなります。

もちろん割愛依頼を受ける側の大学は、それをお断りすることは可能でしょうが基本的には承諾せざるを得ません。前向きによく考えれば、送られてきた大学側は、その文書を活用して、教授会や全学会議での承認を得やすくなると思えます。ただ、暗黙の礼儀として、4月採用の割愛依頼を1月あたりに送ってこられると、次年度の履修計画が決まりシラバスも出来上がっている頃なのでかなりの迷惑行為。割愛される側の大学は、玉突きで穴の開いた科目の教員を手当て等至急行う必要が生じます。そんなこともありイメージ的には10月11月くらいには採用の決定をこそっと内示してきれいに辞めれるように事前準備してもらう方が良いかもしれません。

割愛がなくても良い場合

教員の転職話って以上のようなプロセスを踏まなくても(普通の労働者なんだから)労働基準法のプロセスに従って退職し、次の勤務地へ行っても良いものと思えますが、困ることも。

大学の教員ってその仕事は非常に細かいフィールドで生きているわけで、例えば工学研究科のマテリアル工学で教授をしていて、違う大学で法学研究科国際法担当の教授になることは絶対にありません。つまり割愛される教授は、転職先でもマテリアル工学の分野で勤務することになり、今後もどこかの学会や研究会等々で関係する人物と出会うことになります。その時に異動でもめたというのもアレですので円満に割愛手続きを踏んで平和裏に進めるのが良いのかもしれません。

不要論の人の考え方は、割愛行為は国家公務員時代の名残(官職を維持したままでの他機関へ異動する手続き書類)で、今現在のような(一応)誰でも自由に行きたいポジションへ応募し採用してもらえる時代になったのに機関同士で人身売買的なやり取りすることへの違和感を感じるのかもしれません。また、割愛を行う教員は、教授・准教授クラスで全国的にもそれなりに知られた存在の人。今現在職を持っているにしても助教やPDレベルの研究の人にわざわざ割愛を求める意味は現実的には不要といえます。

まとめ

完全にまとまりませんが、それでも大学では教員異動の際のプロトコルとして活きています。大学で働いている教員・事務職員の人にも目にする機会は今後もありそうですのでちょっとした知識となれば幸甚です…。

 

 

 

【吉例】2023年度第14回育志賞受賞者がきまりました

筆者による育志賞の評価コメントも今回で3回目(賞が始まって14回目)になります。それなりに気づいたことをまとめてみます

はじめに ー日本で数少ない博士大学院生の顕彰事業ー

育志賞は、JSPSのやっている博士大学院生の顕彰事業。令和6年1月18日、2023年度の受賞者の発表があり18名(推薦候補者170名)が選ばれています。なお、去年も受賞者は18名でしたので何かこの数字に意味合い(予算?20名にはしたくない?)があるのかもしれません。

候補者の推薦依頼は、我が国の大学及び学術団体2491件に対して推薦依頼したところ、170名の候補者が出てきたようです。筆者的には、1機関1名の推薦ならこんなものなのかなあとも思えます。そして送られてきた推薦は、学術システム研究センターにおいてピアレヴューし、最終的には令和6年1月5日に開催された本賞選考委員会の選考結果により受賞者18名を決定しています。念のためですが、一大学一名の推薦なのですが、学術団体からの推薦という手法もありますので、結果的に東大を中心とする旧帝大が増える傾向になります。

今年度受賞者の気づき

で、今年の傾向は(ってなかなか説明はむずかしいのですが…)やはり旧帝大の受賞者が11名と多いこと。なお、昨年はゼロだった京大が2名受賞者をだし挽回しています。JSPSとしては、日本の考えうる推薦機関すべてに依頼をかけてこの結果ですから、良くも悪くも日本の大学院の教育研究は旧七帝で回っていることを改めて実感させられます。そんな状況を見つめつつ印象的に残った受賞者。

①吉治さん 京都大学(大学院医学研究科・マギル大学ゲノム医学国際連携専攻) 

筆者も行うべきだと考える(しっかりした)海外機関との連携。マギル大とも連携がうまくいっているようで継続的に成果がでているようです。この連携専攻からは2年前、第12回の時も中西さんが受賞しています。衰退気味の日本の大学たちですので、今後も医学の領域だけでなく海外の大学との連携が必要です。

www.med.kyoto-u.ac.jp

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②板尾さんと山岸さん 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻

一回の受賞で候補者が170人いた中、同じ大学で同じ大学院で同じ専攻において2名の受賞者が出るというのはすごいこと。それも板尾さんは人文社会学系で、山岸さんは自然科学系という異なる研究分野で。筆者的には総合文化研究科ってほわっとしてリベラルアーツのにおいがする大学院だと勝手に思っていますが、そんな文化の中でのびのび自由に研究ができるところがこの研究科の良いところかもしれません。

③桐野さん 明治大学大学院農学研究科農学専攻

どちらかと言えば言いたいのは明治大学さん。桐野さんのように女性で私大の大学院の博士後期課程までいき、フィールドワークでがんばって線虫やカミキリムシの研究を一生懸命して成果を出している学生たちがいるんだから、もっと大学院教育を充実してあげれば、私大でも旧帝大と並ぶような評価をしてもらえる大学院になれるという証左。無駄に駅伝やラグビーに大学の限られた資金を投下するより学部を含めた教育・研究環境をもっと充実してあげてください。

④小林さん 琉球大学大学院理工学研究科海洋環境学専攻

③の桐野さんと同じ傾向。大学院生がフィールドワークして洞窟に入ってハゼを探したりすることへの理解や評価をするうえでも貴重な受賞だと思います。琉球大学さんにとっても近年OIST(沖縄科学技術大学院大学)さんの方が脚光を浴びている部分もありますので琉大もがんばっていることを知ってもらえる良い機会に。特に沖縄では自然科学の分野でその地域性を活かした独特の研究ができる分野がたくさんあります。高校生・受験生のみなさんも都会志向と偏差値の呪縛にとらわれず、自分の学びたいこと学びたいところで探してみることをお勧めします。

まとめ

育志賞の選考に関しては、JSPSもMEXTもたくさんの機関に推薦依頼をしてピアレビューをして公平性平等性には留意をしているのですが、結果的には旧帝大が占めてしまいます。その旧帝大大学院においても出願者は減少傾向。もっと悲惨なことをいえば私大の社会科学系大学院には閑古鳥しかいません。この育志賞のように大学院生の活動やその成果を知らせてあげる場をたくさん提供する必要があると感じます。MEXTもいろいろ策は講じているのですが…

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がんばれ!北陸の大学たち

よりによって1月1日に発生してしまった能登半島地震。現地でこの災害に遭われた方にお気の毒とか言いようがありません。衷心よりお見舞い申し上げます。そのような場所で生活し、大学受験を目指す高校生・受験生の方も大変な中ですが、なんとか希望する大学へ入れることを祈念します。ここではこんな災害発生時の大学入試を中心に考えてみます。

はじめに ー今回は共通テストを中心にー

これまでの筆者の経験上、地震被害の続く中での大学共通入学試験の実施は経験ありません。例えば、阪神淡路大震災の場合はセンター試験直後、東日本大震災の場合は3月11日ですから入試に関しては大半が終了している状況。

今回は、発災後2週間ほどで共通テスト(1月13日(土)、14日(日))を迎えます。余震が続くことも予想されますのでまずは安全確保のうえ無事に共通テストの実施を。各大学個別の入試に関しては2月に入ってからになりますので、準備の時間はなんとかあります、が、引き続き被災地の受験生への十分なケアが必要となります。

石川県にある大学

まず、北陸地方ですが、福井県、石川県、富山県新潟県。今回の地震の影響を受けた県と重なります。その中でも被害の大きい能登・奥能登エリアの大部分を抱えるのが石川県ですので、ここでは、石川県の大学のとりくみを考えます。

その石川県では、共通テストに8大学12会場で実施を行います。その中でも受入数が多いのが金沢大学で2779名。大学入試センター令和6年度大学入学共通テスト試験場一覧による)

基本的に、大学入試共通テストというものは、それぞれの大学にとっては、大学入試センターさんからの頼まれ仕事ですから、勝手なアドリブなしで言われたとおりちゃんと間違いなく行うことが鉄則。ですので、指定された時刻に試験を開始し、指定された言葉で試験問題についての説明をし、それから試験を開始し、指定された時間に終了し、場合によっては問題訂正の Fax が流れてきて、指定された時間内に各教室の受験生に板書等の指定された方法で周知する等々を粛々と行います。

多分、金沢大学さんあたりならMEXTとのパイプもあり手慣れていると思いますが、それ以外の大学さんは少し心配。余震が続く中でイレギュラーな事象が発生するかもしませんので、大学入試センターさん、MEXTさん等の関係機関としっかりしたすり合わせをして試験日当日をむかえてもらいたいものです。

筆者が気になるのは、試験当日の地震の発生の対応。(多分)試験実施会場に震度4を超えるような地震が、試験時間中に発生した場合、まず受験生への安全確保が優先されますから試験を(一時)中止する方向に進むんだと思います、が、若干揺れを感じるような震度3以下の揺れが生じた場合はどうするのか?。緊急地震速報での数値情報を得るのも数分かかるでしょうから、試験の中止もしくは試験時間の延長等を行って試験を継続する等難しい判断を短い時間内に行う必要があります。(特に試験時間中に揺れが生じた場合の受験生の動揺は非常に大きなものなりますので万全の準備が必要だと思います。)

そのため、一番不安になっている受験生にも予め試験時間中に地震が発生した場合どのように試験が実施され安全確保が行なわれるのかを事前に周知し知ってもらうことがとても大切。それぞれの大学は受験生が安心して受験してもらえるようにしていただきたいものです。

おわりに

残念ながら、日本に住んでいると何かしらの災害に見舞われてしまいます。北陸地方はこれからが冬本番。何とか早く雪と寒さが本格化する前に復興支援の目鼻立ちがつけばと感じます。大学に関して言えば、大学自体の仕事に加え、文科省から被害状況の把握のため様々な調査・報告依頼が来ていると思います。それでなくても忙しい時期だと思いますが、がんばって乗り切っていきましょう。

www.dnc.ac.jp

神戸市さんが王子公園駅界隈に大学誘致したのが今後どうなるのか考えてみる6

令和5年12月22日、ついに神戸市さん法人関学さんとで、正式に王子公園で大学を作る基本協定の締結を行いました。なお、キャンパス名は『王子キャンパス』とするようです。

ふわっとしたことしかいえない事情

協定書締結のセレモニーには、森康俊関学学長、村上一平関学法人理事長、神戸市側からは、久元喜造神戸市長とで実施され、みんな満面の笑顔。そして記者会見も行われたようです。

改めてですが、新キャンパスの方向性は、これまでに公開されたものと大きな変更はありません。その理由は、大学と市がいくらここに大学作ります、と言っても文科省に書類を提出し承認を得る必要があるから。そのため、ある程度、文科省とすり合わせのうえ計画を固めていかないとそのうち文科省から(酷く)怒られます。というか申請が認められなくなることも…。ですのでこれから数年は派手に花火を打ち上げて騒ぐのは良くありません。

https://www.city.kobe.lg.jp/documents/58605/kyotei.pdf

【 大学の設置認可・届出制度】これに基づいて書類を文科省に提出して、長い審査を行うことになります。

www.mext.go.jp

それでもその中で見えてきたもの

4000人規模のキャンパスを作る方向性は変わらない

発表の際は、コメントも基本的にはこれまでの事業計画に基づくもので、新学部文理融合、社会人のリカレント・リスキリングを行い目新しいものを作る、キャンパスを国際交流の場とする、というもの。文科省がらみで、多分学部名称のような詳細を個別具体的に入れるのはまだ時期尚早と考えているのだと思います。ただ、その中でも多少具体化・数値化したものも以下に見受けられました。

一つだけ数値化がみえてきたのが留学生(外国人学生)数。キャンパスの学生のうち20%程度を留学生としたいようです。ですので、基本計画どおり4000人の学生が学ぶとして、そのうち800人程度が留学生とする勘定。そこで、一般的な日本国内の大学での留学生施策として考えないといけないことは、①英語で授業、②留学生へ授業の実施方法、③800人の海外からやってくる学生の寮はどうするの?あたりが(大学職員としては)気になります。

①英語での授業については、専門科目についても英語で授業が完結できる専任の先生がいるのか?これから獲得?は大きな問題。大学教授ってスーパーマンでもありませんので授業には耐えられない英語能力の人は結構います。

②留学生のためだけの学部・学科を作るのか?その仕組みが気になります。関西圏では兵庫県立大学さんが国際性の高い学部を設けましたが、組織的には学部として1440人規模(1学年330人で総収容定員1440人規模、定員外で1学年30人規模の留学生を受入れ)。関学さんの計画ではこの数値の5倍以上の留学生に毎年来てもらう必要があります。また、実際に新しい学部が動き出したら毎年200人の質の高い留学生のリクルートを行う必要があります。そもそも毎年新たに200人の留学生が来てくれるかって結構至難の業と思えます。最初のうちは大丈夫でしょうが、留学生の質が低下しだした場合、定員確保のため、特定の国に偏った留学生ばかりにならないか心配です。さらに、留学生がどうしてもこないので、気がついたら、1か月ほどのサマープログラムでやってくる海外の学生をカウントにいれ、お茶を濁したりしなうようがんばってもらいたいところです。※数値は兵庫県立大HP:学生学生定員現員表(令和5年5月1日現在)による

www.u-hyogo.ac.jp

③突然の800人規模の留学生のお部屋探しもチャレンジャーな話。近隣で留学生の多い阪大でも2000人程度ですから、一挙に800人増えるとなると関学さんにとっても大きな負担となります。筆者個人的な良案は神戸市さんと相談してポートアイランドや西区あたりにある市営の住宅の空室を改修して留学生寮として利用するのがエコで良い気がします。それでも施設の維持管理は大変。

図書館や食堂等キャンパスの市民への開放は行う

どうも神戸市側の期待が大きすぎます。例えば授業実施期間でもない8月に(学生も少ない中)市民のためだけに食堂開けたりするんでしょうか?。珍し好きの近隣住民の食堂利用過多や過剰要求も容易に想像できますし、入室禁止エリアへの無断侵入や、事件・事故等も起こるかもしれません。図書館の活用も大学図書館と公立図書館とでは異なる部分も多いので、市民の期待どおりに使えない部分も多く生じてきます。

学生数調整が一番の課題

これも前から書いていますが、多分、関学さんとして一番の頭の痛いところ。今の関学さんの学生数は25000人くらい。新キャンパスで4000人の学生を見込むとして、その数が自動的に増えて29000人となることは絶対ありません。こんなことやりだしたら首都圏にある大学も、どこそこに新キャンパスを作り4000人定員増やしてくださいとか言い出して大学の定員管理の意味をなさなくなります。

この課題については、文科省への申請時にいろいろな理由をつけておねだりすることになるのでしょうが、定員厳格化の中、筆者の見立てでは増えても1000人程度、場合によっては現状維持でやりくりするように言われても不思議ではありません。

記者会見時に学長さんも、このキャンパスのみではなく、他の学部・キャンパスにも影響がでることをお話されていました。どうするかと言うと、多分、今現在の関学さんの総収容定員を基準値とし、今回増える4000人を調整していく、例えば、他の学部の収容定員を、ちょっとずつ減らしていくもの、大学全体で学部組織を改編して大規模な数字上の調整も必要かもしれません。

ですので、他のキャンパス、他の学部の教員、学生の人たちも、突然、大学から、自身に不利益が被る可能性のある再編案が出てくると不審と混乱を招きかねません。多くの関学さんの関係者の方たちは王子キャンパスのある状態を思い描けていない段階と思います。これから現実味がでてくると様々な歪がみえてくるかもしれません。

まとめ

筆者も神戸市民であり、大学での職員生活も長かったのでこの新キャンパスのお話には関心はそれなりにあります。ただ、基本的には、与えられた土地にキャンパスを作るだけの単純なお話。旧市営公園の土地を割り当ててもらっているので、関学さんは神戸市さんと様々な調整は必要でしょうがそれ以上の話でもありません。逆に神戸市側が、売り払った土地の上に建つ建物のデザイン・構造や周辺環境の整備、大学が市民へ提供するサービスの内容についてまで重箱の隅的な視点で口を出してくるのは、関学さんにとっては迷惑な話に感じます。そんなに話を盛り上げる必要もありません。

筆者が最初に書いたように、大学病院関連の医療施設であったり、動物病院併設の獣医学部の設置の方が粛々と進んだような気もします。時計を戻すことはできませんので、今後の関学さんのがんばりに期待です。

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【恒例】令和5年度 第20回日本学術振興会賞の受賞者の状況について考えてみる

2023年12月20日付けで、令和5年度の日本学術振興会賞の発表がありました。昨年度の2022年に引き続き今年度の動向について考えてみます。それと同日付けでもう一つ発表のあった招へい長期の採択者の中にも気になる人がいましたのでコメントをしてみます。※気にる方は詳細をJSPSのHPでご確認ください。

令和5年度の特色まるっとみてみる

去年とあまり変わりません、と書いたらブログが進みませんのでいくつか気づいた点。そもそもですが、この推薦事業では、機関推薦と前回からの継続推薦の候補者を入れ約500人の中から(多分)学術システム研究センターでプールしている分科細目別の専門家の先生たちにピアレビュー(査読)をしてもらって得点化して絞り込み、最終的に審査会で25名を決めていく流れ。

まず、審査会委員の顔ぶれ。13人の方で会議をやって最終決定をするのですが、OKな部分は女性の委員数6名を割り当てていること。このことは、JSPS(MEXT)の気配りが感じられました。ただ、委員の中に東大と名の付く身分の人が5人いるのはなんだかなあと感じます。もうちょっと工夫して他の大学・機関の入っている方がそれらしい良い印象。筆者は物分かりが良い方なので東大だからといって気にしませんが、一部の方は『だから学振や文科省は東大とズブズブなんだ!』とか主張するので注意した方が良いと感じます。なお、当委員会の目的は最終決定であり、若干の微調整はあるかもしれませんがそれに大勢に影響は生じませんし、このレベル事業になると東大関係の委員がいたとしても東大候補者を強引にねじ込むこともありません。

選ばれた25人

印象的だったのは女性の決定者が4/25であったこと。今の日本で40歳前後で活躍できている女性人材が如何に少ないことへの対応は待ったなし。そんな中、小野田風子さん(阪大人文学研究科(特任助教)・日文研でもポジションあり)は、他の受賞者より10歳若く(31歳!)て選ばれていて、研究内容も『スワヒリ語の作家研究及びスワヒリ語詩の発展史と社会的機能についての研究』という(良い意味で良く分からない)研究テーマも今後に期待ができそうです。多分よっぽどアフリカへ行った際のフィールドワークの内容や課題へのアプローチとかが独創的で目を引いたんだと思います。筆者としては小野田さんを今回の受賞の中で一番期待してみたいです。

他に印象的だったのは、個人というより沖縄科学技術大学院大学 OISTのお二人。お一方はアメリカ国籍、もうお一方は中国籍の方。OISTみたいに、しっかりした予算措置をして国際性を高めた教育・研究基盤を持てば、日本国内においても国際レベルの研究と成果がちゃんと行われる施設を作れるという証左だと感じます。

また、個人別ならユニバーシティカレッジロンドンで Full Professor のポジションを持っている斉藤一弥さん(42)と同じくブリティッシュコロンビア大学で Full Professor の谷内江望さん(42)についても今後の期待大。日本生まれ日本育ちの人もがんばれば若くして海外でもちゃんとやっていけることがわかります。

折角なのでもう一人ご紹介 ー招へい長期での採択者ー

まず始めに、この方は振興会賞の話とは全く違います。JSPSの振興会賞の発表の同日に発表された令和5年度招へい長期の募集で採択(工学系科学分野)でされた方。この人も気になりました。お名前は MIRUMACHI Naho さん。招へい長期の事業趣旨は、海外の大学等からの著名な研究者をお招きするものですので、ほぼ全員外国籍の方なのですが、この方のみが日本国籍。考え方はいろいろですが、海外の優れた(外国人)研究者を呼ぶべきだという考え方もあるでしょうし、MIRUMACHIさんのように優れた日本人研究者を呼ぶのも悪いことでは全然ありません。斜め目線でいうと、諸外国との研究者交流の面からみても、海外で活躍している優れた日本人研究者の数が少ないことを示しているのかもしれません。

受入れは東大生産研沖大幹教授(ざっくり国際水資源に関する大家)、MIRUMACHIさんのお名前でググると2015年くらいから論文や研究活動についての情報が(英語で)たくさんみることができます。ちなみに筆者が調べた限りでは漢字氏名は、美留町奈穂さん。国内でのキャリアは、慶應義塾大学法学部薬師寺泰蔵(名誉)教授ゼミ(ざっくり国際政治学の大家)を経て(多分)大学院は東大大学院新領域創成科学研究科に移ったようです。採択された研究課題は『持続可能な水マネジメントに向けた仮想水貿易分析による人間活動と水の相互作用解明』。2006年当時のppt資料でも、文理融合の手法によって国際河川管理へのアプローチについてを検討しそれを専門とされています。そして現職が 、(Full) Professor in Environmental Politics at the Department of Geography, King’s College London 。

※先に学振事業の採択結果が東大ばっかりになるとのことを書きましたが、(例えば) MIRUMACHI さんのような学歴・研究歴と指導教員の顔ぶれで事業への応募があったとしたら、ピアレビューする側の先生たちもケチのつけようがありません。実際のところ東大だけでなく京大や旧帝大のようなところにはMIRUMACHIさんのようなキャリアを持った人のような応募が集まるので自ずとその積み重ねで採択は東大であったり京大であったりばかりになるということ、どこの大学で働いている教職員も勉強がてら知っておくほうが良いと思います。

www.kcl.ac.uk

と、偉そうなことを書いている筆者も、MIRUMACHIさんのお名前を存じあげたのは今回のJSPSの採択者からですので決して全く大きなことは言えません。そのような自身の未熟と不明を恥じる一方で海外で活躍されている若手の研究者がいらっしゃることを知ることができると心強くほっとします。日本育ちの日本人研究者でもやればできるのですからもっと海外での活躍を目指してがんばっていただきたいものです。

※記載の出典の解説:学振の事業については、特に公費(国民の税金)で採択しているため、審査経過とそのプロセスを含めてHP等において積極的にその内容を公開をしています。各人や研究内容の評価については筆者の判断で記載しています。なお、研究者のキャリア調べをするのは結構得意な分野です。

まとめ

学振であれば、この顕彰以外にも、国際生物学賞や育志賞等々実施しているのですが認知度が思わしくありません。だいたいブログでこんなコメントを書いているのは(良くも悪くも)筆者くらいですし、どこの大学へ行ってもこのような受賞結果で盛り上がることはまずありません。

なお、それにしても筆者のがっかりは日本の私立大学。特に首都圏には、偏差値がそれなりに高いといわれる私立大学がそれなりに揃っているはずですが、その結果をみれば歴然、全く若手の教員の育成がなされていないことを知ることができます。

そんな中で、今回の受賞者の中で評価された私立大学は、芝浦工大さんと慶応義塾大さん所属の2名のみ。でも、よく頑張りました。

その反面、箱根駅伝ラグビー・アメフト・野球でなんかでわいわい盛り上がっている(特に)首都圏にあるたくさんの私立大学たちは、研究や教育に力をいれないことが顕著、このような受賞の際には影も形ありません、いったい何をやっているんでろう…。もちろんこの顕彰事業は若手(40歳前後)で頑張っている教員・研究者を対象にしているものなので、直接学生スポーツとは関わりはありません、が、そもそもの大学がなんのために存在しているのか?大学の視点というか求める先というかベクトルがあまりにも異なりすぎています。入学料・授業料を免除して返済不要の奨学金を与え、寮まで用意するような手法で全国から競技のためだけに学生をリクルートすることに奔走することより、それだけの金があるのなら、大学には他にもっとやるべきことがあることを考えてもらいところです。

↓ 去年はこんな感じ

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【追記の2つめ・同窓会のあとの melancholy 】大学職員として働くなら結局どこが一番よいのか考えてみる3

毎回この集まりのあと、自分の人生への自問自答とその憂鬱が訪れます。その理由はあとの方で。大学の仕事って難しそうに感じるかもしれませんが大半はこんなんなんです。

ケーニヒスクローネくまポチ邸のご紹介

同窓会の場所は、神戸旧居留地のホテルケーニヒスクローネさんのくまポチ邸。近くには神戸大丸さんや生田神社さんがあったりするところ。このくまポチ邸は、ケーニヒスクローネのホテルの1階と2階に設けられたゆったりとした喫茶・お食事コーナー。ここのランチタイムの魅力はたくさんあって、ざっくり2000円ちょっとで、メイン+サラダ+いろいろなパン食べ放題、コーヒー・紅茶も飲み放題。また、当日早く行けば、早い者勝ちで席取りができるので、仲間内で遅れてくる人も安心、これで時間制限もなし。そのため、いわゆる女子会的な利用者が多くなっています。ですので、オトコばかりで食っている連中の姿はあまりみません。お食事のクオリティーケーニヒスクローネのお名前でやっていますので普通にOK。どちらかというとボリュームが多すぎて食べきれません。このあたりにおいでになる方にはおススメのお店です。

【写真】ホテルケーニヒスクローネ 奥の方の白いのが神戸大丸

konigs-krone.co.jp

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この同窓会というか大学の時に仲の良かった雑多な連中の集まりも、コロナがあったため3年ぶりくらいの開催、今回は全部で9名の参加でした。

だいたいこの手の集まりの冒頭は『みんな元気にしてたん?今なにしてんの?』から始まり、各自の身の上話とかが酒の肴に。そのため筆者も『私は今、何をしてるんか』を説明する必要性が生じてきます。他の人物は『Aな、○○銀行から出向してメーカーの△△へ行かされてるみたいやわ』とか『Bから連絡ないねん、病気やと聞いてるけど大丈夫なんかなあ』とか『新NISAどうするん?あれ絶対いけると思うわ』のような話で盛り上がる中、筆者の持ちネタ(仕事ぶり)は以下くらいしかありません。

大学の日常 ーいろんな出来事をオムニバス形式でー

大学にかかってくる電話:このようなお問合せに真摯に丁寧に対応します。

①大学の近所の住民たちから、大学へ苦情電話『家の前にオタクの学生さんが違法駐輪されて困っとんや、タバコの吸い殻も落ちとるし』への対応。

②近所の住民たちから、市民講座担当へ電話『市民講座聞きたいんやけど予約はホームページからと書いてあるんやけどやり方全然わかりしまへんねん、この電話で予約やってもらえまへんか?』への対応。

③学生のおかあちゃんから、学生担当への相談電話『これから息子が免許とりに自動車学校にへ行くんやけどその間の授業は公休?にできるんですか?』への対応。

④学生のおとうちゃんから、学生担当へ怒りの電話『息子に聞いたらゼミの先生が、これから実験でRI(放射性同位元素)使ういうとんや!びっくりしたわ!なんでそんな危険なもんつかうんや!』への対応。

オフィスでも同じようなもん

教員(学生)から『教室のシステムで授業しようとしたら自分のマックPCでつなごうとしたらプロジェクタ投影できへんのですわ、ちょっと見にきてください』『教壇のPCにUSBさしたままになってへんか確認してもらえますぅ?あのUSB大切なんですぅ!』『○○教室行ったら鍵閉まってるんで開けてください(単なる部屋間違い)』『教室の一番後ろの座席にカバン忘れてませんでしたか?』『教授会終わった後、司会席のマイク切って部屋のカギ閉めたかなぁ?確認してきて!』

⇧ 等々をやっているともう帰る時間になっているもの。実際の大学って難しい仕事は控えめで、こんな感じで毎日やっています。

大学外の人たちの大学への関心が低いことを学ぶ

このような集まりがあるたびに感じることは、大学についての認識度。前向きにいえばそれを反対に学ぶ良い機会になります。ずっと働いている者には、『大学』って日常ですが、普通の街中の人たちにとっては、どこか遠いどうでも良い存在。例えば、北大阪急行御堂筋線)が延伸して箕面船場阪大前駅ができる話や大阪市立大学・府立大学が統合して大阪公立大学になった話なんかも『へぇそうなん』で済んでしまいます(事例としては多少オタッキーかもしれません…)。

良くも悪くもこれくらいの知識を持った人が日本人の標準っぽくて、同様に大学受験をする家族の大学の認知度もさして変わらぬレベルでしょうから、国公私立大の相違や、学部の選び方のようなそもそもについても、この程度の認識で選んでいることがよくわかります。だから、大学職員として危惧するのは、大学を選ぶ物差しも、予備校の提供する(信頼性に欠ける)偏差値であったり、FランでBFのような誇張されたイメージ、大学評論家とやらの解説を鵜呑みにしてしまうんだろうなぁ、と感じます。そんな心配ごとも自分たちのお子様が大学に入ってしまえばそれで終わり。

ふり返ってみて、筆者の良かったポイントは、個人的にも関心の高かった国際関係の業務に10年くらいつくことができたこと。筆者の場合は、学部の教務であったり会計・経理関係ばかりが長く続いているようならとっくに辞めていたかもしれません。反対に言えば、大学の中でも、総務が好き人事が好き広報が好きと自分の好きな分野をもっている方が長く働こうとする気持ちの支えになるかもしれません。

他人に自分のキャリアの説明をする時なんか、適当に盛って話せばそれまでなのかもしれませんが、それでも大学の仕事を説明するのは難儀します。これから大学で働こうと思っている方そんな大学でもがんばって支えていただければと思います。

 

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