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日本の大学 今 未来

神戸市さんが王子公園駅界隈に大学誘致したのが今後どうなるのか考えてみる6

令和5年12月22日、ついに神戸市さん法人関学さんとで、正式に王子公園で大学を作る基本協定の締結を行いました。なお、キャンパス名は『王子キャンパス』とするようです。

ふわっとしたことしかいえない事情

協定書締結のセレモニーには、森康俊関学学長、村上一平関学法人理事長、神戸市側からは、久元喜造神戸市長とで実施され、みんな満面の笑顔。そして記者会見も行われたようです。

改めてですが、新キャンパスの方向性は、これまでに公開されたものと大きな変更はありません。その理由は、大学と市がいくらここに大学作ります、と言っても文科省に書類を提出し承認を得る必要があるから。そのため、ある程度、文科省とすり合わせのうえ計画を固めていかないとそのうち文科省から(酷く)怒られます。というか申請が認められなくなることも…。ですのでこれから数年は派手に花火を打ち上げて騒ぐのは良くありません。

https://www.city.kobe.lg.jp/documents/58605/kyotei.pdf

【 大学の設置認可・届出制度】これに基づいて書類を文科省に提出して、長い審査を行うことになります。

www.mext.go.jp

それでもその中で見えてきたもの

4000人規模のキャンパスを作る方向性は変わらない

発表の際は、コメントも基本的にはこれまでの事業計画に基づくもので、新学部文理融合、社会人のリカレント・リスキリングを行い目新しいものを作る、キャンパスを国際交流の場とする、というもの。文科省がらみで、多分学部名称のような詳細を個別具体的に入れるのはまだ時期尚早と考えているのだと思います。ただ、その中でも多少具体化・数値化したものも以下に見受けられました。

一つだけ数値化がみえてきたのが留学生(外国人学生)数。キャンパスの学生のうち20%程度を留学生としたいようです。ですので、基本計画どおり4000人の学生が学ぶとして、そのうち800人程度が留学生とする勘定。そこで、一般的な日本国内の大学での留学生施策として考えないといけないことは、①英語で授業、②留学生へ授業の実施方法、③800人の海外からやってくる学生の寮はどうするの?あたりが(大学職員としては)気になります。

①英語での授業については、専門科目についても英語で授業が完結できる専任の先生がいるのか?これから獲得?は大きな問題。大学教授ってスーパーマンでもありませんので授業には耐えられない英語能力の人は結構います。

②留学生のためだけの学部・学科を作るのか?その仕組みが気になります。関西圏では兵庫県立大学さんが国際性の高い学部を設けましたが、組織的には学部として1440人規模(1学年330人で総収容定員1440人規模、定員外で1学年30人規模の留学生を受入れ)。関学さんの計画ではこの数値の5倍以上の留学生に毎年来てもらう必要があります。また、実際に新しい学部が動き出したら毎年200人の質の高い留学生のリクルートを行う必要があります。そもそも毎年新たに200人の留学生が来てくれるかって結構至難の業と思えます。最初のうちは大丈夫でしょうが、留学生の質が低下しだした場合、定員確保のため、特定の国に偏った留学生ばかりにならないか心配です。さらに、留学生がどうしてもこないので、気がついたら、1か月ほどのサマープログラムでやってくる海外の学生をカウントにいれ、お茶を濁したりしなうようがんばってもらいたいところです。※数値は兵庫県立大HP:学生学生定員現員表(令和5年5月1日現在)による

www.u-hyogo.ac.jp

③突然の800人規模の留学生のお部屋探しもチャレンジャーな話。近隣で留学生の多い阪大でも2000人程度ですから、一挙に800人増えるとなると関学さんにとっても大きな負担となります。筆者個人的な良案は神戸市さんと相談してポートアイランドや西区あたりにある市営の住宅の空室を改修して留学生寮として利用するのがエコで良い気がします。それでも施設の維持管理は大変。

図書館や食堂等キャンパスの市民への開放は行う

どうも神戸市側の期待が大きすぎます。例えば授業実施期間でもない8月に(学生も少ない中)市民のためだけに食堂開けたりするんでしょうか?。珍し好きの近隣住民の食堂利用過多や過剰要求も容易に想像できますし、入室禁止エリアへの無断侵入や、事件・事故等も起こるかもしれません。図書館の活用も大学図書館と公立図書館とでは異なる部分も多いので、市民の期待どおりに使えない部分も多く生じてきます。

学生数調整が一番の課題

これも前から書いていますが、多分、関学さんとして一番の頭の痛いところ。今の関学さんの学生数は25000人くらい。新キャンパスで4000人の学生を見込むとして、その数が自動的に増えて29000人となることは絶対ありません。こんなことやりだしたら首都圏にある大学も、どこそこに新キャンパスを作り4000人定員増やしてくださいとか言い出して大学の定員管理の意味をなさなくなります。

この課題については、文科省への申請時にいろいろな理由をつけておねだりすることになるのでしょうが、定員厳格化の中、筆者の見立てでは増えても1000人程度、場合によっては現状維持でやりくりするように言われても不思議ではありません。

記者会見時に学長さんも、このキャンパスのみではなく、他の学部・キャンパスにも影響がでることをお話されていました。どうするかと言うと、多分、今現在の関学さんの総収容定員を基準値とし、今回増える4000人を調整していく、例えば、他の学部の収容定員を、ちょっとずつ減らしていくもの、大学全体で学部組織を改編して大規模な数字上の調整も必要かもしれません。

ですので、他のキャンパス、他の学部の教員、学生の人たちも、突然、大学から、自身に不利益が被る可能性のある再編案が出てくると不審と混乱を招きかねません。多くの関学さんの関係者の方たちは王子キャンパスのある状態を思い描けていない段階と思います。これから現実味がでてくると様々な歪がみえてくるかもしれません。

まとめ

筆者も神戸市民であり、大学での職員生活も長かったのでこの新キャンパスのお話には関心はそれなりにあります。ただ、基本的には、与えられた土地にキャンパスを作るだけの単純なお話。旧市営公園の土地を割り当ててもらっているので、関学さんは神戸市さんと様々な調整は必要でしょうがそれ以上の話でもありません。逆に神戸市側が、売り払った土地の上に建つ建物のデザイン・構造や周辺環境の整備、大学が市民へ提供するサービスの内容についてまで重箱の隅的な視点で口を出してくるのは、関学さんにとっては迷惑な話に感じます。そんなに話を盛り上げる必要もありません。

筆者が最初に書いたように、大学病院関連の医療施設であったり、動物病院併設の獣医学部の設置の方が粛々と進んだような気もします。時計を戻すことはできませんので、今後の関学さんのがんばりに期待です。

fou.hatenadiary.jp