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【恒例】令和5年度 第20回日本学術振興会賞の受賞者の状況について考えてみる

2023年12月20日付けで、令和5年度の日本学術振興会賞の発表がありました。昨年度の2022年に引き続き今年度の動向について考えてみます。それと同日付けでもう一つ発表のあった招へい長期の採択者の中にも気になる人がいましたのでコメントをしてみます。※気にる方は詳細をJSPSのHPでご確認ください。

令和5年度の特色まるっとみてみる

去年とあまり変わりません、と書いたらブログが進みませんのでいくつか気づいた点。そもそもですが、この推薦事業では、機関推薦と前回からの継続推薦の候補者を入れ約500人の中から(多分)学術システム研究センターでプールしている分科細目別の専門家の先生たちにピアレビュー(査読)をしてもらって得点化して絞り込み、最終的に審査会で25名を決めていく流れ。

まず、審査会委員の顔ぶれ。13人の方で会議をやって最終決定をするのですが、OKな部分は女性の委員数6名を割り当てていること。このことは、JSPS(MEXT)の気配りが感じられました。ただ、委員の中に東大と名の付く身分の人が5人いるのはなんだかなあと感じます。もうちょっと工夫して他の大学・機関の入っている方がそれらしい良い印象。筆者は物分かりが良い方なので東大だからといって気にしませんが、一部の方は『だから学振や文科省は東大とズブズブなんだ!』とか主張するので注意した方が良いと感じます。なお、当委員会の目的は最終決定であり、若干の微調整はあるかもしれませんがそれに大勢に影響は生じませんし、このレベル事業になると東大関係の委員がいたとしても東大候補者を強引にねじ込むこともありません。

選ばれた25人

印象的だったのは女性の決定者が4/25であったこと。今の日本で40歳前後で活躍できている女性人材が如何に少ないことへの対応は待ったなし。そんな中、小野田風子さん(阪大人文学研究科(特任助教)・日文研でもポジションあり)は、他の受賞者より10歳若く(31歳!)て選ばれていて、研究内容も『スワヒリ語の作家研究及びスワヒリ語詩の発展史と社会的機能についての研究』という(良い意味で良く分からない)研究テーマも今後に期待ができそうです。多分よっぽどアフリカへ行った際のフィールドワークの内容や課題へのアプローチとかが独創的で目を引いたんだと思います。筆者としては小野田さんを今回の受賞の中で一番期待してみたいです。

他に印象的だったのは、個人というより沖縄科学技術大学院大学 OISTのお二人。お一方はアメリカ国籍、もうお一方は中国籍の方。OISTみたいに、しっかりした予算措置をして国際性を高めた教育・研究基盤を持てば、日本国内においても国際レベルの研究と成果がちゃんと行われる施設を作れるという証左だと感じます。

また、個人別ならユニバーシティカレッジロンドンで Full Professor のポジションを持っている斉藤一弥さん(42)と同じくブリティッシュコロンビア大学で Full Professor の谷内江望さん(42)についても今後の期待大。日本生まれ日本育ちの人もがんばれば若くして海外でもちゃんとやっていけることがわかります。

折角なのでもう一人ご紹介 ー招へい長期での採択者ー

まず始めに、この方は振興会賞の話とは全く違います。JSPSの振興会賞の発表の同日に発表された令和5年度招へい長期の募集で採択(工学系科学分野)でされた方。この人も気になりました。お名前は MIRUMACHI Naho さん。招へい長期の事業趣旨は、海外の大学等からの著名な研究者をお招きするものですので、ほぼ全員外国籍の方なのですが、この方のみが日本国籍。考え方はいろいろですが、海外の優れた(外国人)研究者を呼ぶべきだという考え方もあるでしょうし、MIRUMACHIさんのように優れた日本人研究者を呼ぶのも悪いことでは全然ありません。斜め目線でいうと、諸外国との研究者交流の面からみても、海外で活躍している優れた日本人研究者の数が少ないことを示しているのかもしれません。

受入れは東大生産研沖大幹教授(ざっくり国際水資源に関する大家)、MIRUMACHIさんのお名前でググると2015年くらいから論文や研究活動についての情報が(英語で)たくさんみることができます。ちなみに筆者が調べた限りでは漢字氏名は、美留町奈穂さん。国内でのキャリアは、慶應義塾大学法学部薬師寺泰蔵(名誉)教授ゼミ(ざっくり国際政治学の大家)を経て(多分)大学院は東大大学院新領域創成科学研究科に移ったようです。採択された研究課題は『持続可能な水マネジメントに向けた仮想水貿易分析による人間活動と水の相互作用解明』。2006年当時のppt資料でも、文理融合の手法によって国際河川管理へのアプローチについてを検討しそれを専門とされています。そして現職が 、(Full) Professor in Environmental Politics at the Department of Geography, King’s College London 。

※先に学振事業の採択結果が東大ばっかりになるとのことを書きましたが、(例えば) MIRUMACHI さんのような学歴・研究歴と指導教員の顔ぶれで事業への応募があったとしたら、ピアレビューする側の先生たちもケチのつけようがありません。実際のところ東大だけでなく京大や旧帝大のようなところにはMIRUMACHIさんのようなキャリアを持った人のような応募が集まるので自ずとその積み重ねで採択は東大であったり京大であったりばかりになるということ、どこの大学で働いている教職員も勉強がてら知っておくほうが良いと思います。

www.kcl.ac.uk

と、偉そうなことを書いている筆者も、MIRUMACHIさんのお名前を存じあげたのは今回のJSPSの採択者からですので決して全く大きなことは言えません。そのような自身の未熟と不明を恥じる一方で海外で活躍されている若手の研究者がいらっしゃることを知ることができると心強くほっとします。日本育ちの日本人研究者でもやればできるのですからもっと海外での活躍を目指してがんばっていただきたいものです。

※記載の出典の解説:学振の事業については、特に公費(国民の税金)で採択しているため、審査経過とそのプロセスを含めてHP等において積極的にその内容を公開をしています。各人や研究内容の評価については筆者の判断で記載しています。なお、研究者のキャリア調べをするのは結構得意な分野です。

まとめ

学振であれば、この顕彰以外にも、国際生物学賞や育志賞等々実施しているのですが認知度が思わしくありません。だいたいブログでこんなコメントを書いているのは(良くも悪くも)筆者くらいですし、どこの大学へ行ってもこのような受賞結果で盛り上がることはまずありません。

なお、それにしても筆者のがっかりは日本の私立大学。特に首都圏には、偏差値がそれなりに高いといわれる私立大学がそれなりに揃っているはずですが、その結果をみれば歴然、全く若手の教員の育成がなされていないことを知ることができます。

そんな中で、今回の受賞者の中で評価された私立大学は、芝浦工大さんと慶応義塾大さん所属の2名のみ。でも、よく頑張りました。

その反面、箱根駅伝ラグビー・アメフト・野球でなんかでわいわい盛り上がっている(特に)首都圏にあるたくさんの私立大学たちは、研究や教育に力をいれないことが顕著、このような受賞の際には影も形ありません、いったい何をやっているんでろう…。もちろんこの顕彰事業は若手(40歳前後)で頑張っている教員・研究者を対象にしているものなので、直接学生スポーツとは関わりはありません、が、そもそもの大学がなんのために存在しているのか?大学の視点というか求める先というかベクトルがあまりにも異なりすぎています。入学料・授業料を免除して返済不要の奨学金を与え、寮まで用意するような手法で全国から競技のためだけに学生をリクルートすることに奔走することより、それだけの金があるのなら、大学には他にもっとやるべきことがあることを考えてもらいところです。

↓ 去年はこんな感じ

fou.hatenadiary.jp