FOU’s blog

日本の大学 今 未来

【雑学】大学教員の割愛依頼って今後どうなるのか少し考えてみる

割愛のお話はかなりオタッキーです。ただ日本の大学の伝統文化の一つ。筆者も若いころ初めて見た際にはへぇーという感じでした。

はじめに

割愛(依頼)とは、違う大学で働こうとする大学の先生について、採用が内定した大学側から現在勤務中の大学に『この人ください』とお手紙を出すこと。

割愛依頼をおこなう意味

わかりやすい事例(たらればのお話)でいうと、九州大学大学院工学研究科の教授職の先生が東大大学院工学研究科の教授職へ何らかの理由でポジションが移るような場合、東大側は総長名で九大総長あてに割愛依頼書を送ります。なお今現在、多くの大学では管理部門・教育研究部門を分離していますので、正確には総長・学長ではなく大学法人代表者の理事長名で相互にやり取りすることが多くなっています。ですが、少々発送者・受信者が違っていても咎める人はいません、送ることが大切。

表向きはこのようなセレモニー?がおこなわれます。割愛の事由は、基本的にはなんでもOK。先方の大学に引き抜かれる場合もあるでしょうし、教員自身の勤務地を変えたい、家族問題等々千差万別です。もっとテクニカルにいえば、割愛される側の大学で優秀な准教授の先生がいたとして、依頼元の大学で教授ポストの空いているのを事前に察知し、水面下で交渉して教授昇任させる手段としても使えそうです。

割愛とは異なりますが、似たようなわかりやすい話として、今でも行われている国立大学間での異動官職のような人事交流なんかも(国立大学同士なら)どこに行くにしてもしっかりとそれなりに計算し算定された給料をもらえる時に役立ちます。このあたりをみていると大学ではなくて文科省機関内というさらに大きな袋として割愛のシステムは合理的だったのかもしれません。※今現在、文科省やJSPSのような独法でも、大学との間で係長職のようなポジションでの人事交流を行っていますが、私大の場合の算定は結構大変だと思います。

で、その割愛依頼の書きぶりはだいたい決まっていて、『貴学の〇〇教授を、〇〇年4月1日付けで本学工学研究科教授として採用したいのでご承認お願いします』的なもの。そんな人事案件でもあるので、ちゃんと理事長公印が押され、契印も入れ、文書番号をとっている格式あるものにし?、受信側には、大学として『割愛承認しました』の依頼に対する回答書の送付が必要となり、合わせて人事記録(写)の提出も良くあります。人事記録も近年いろいろ変わってきていますが、国家公務員の教育職時代であれば、何時採用されて、今現在教育職俸給表〇級〇号でお給料がでていて、それに加え地域手当や教育・研究内容等々で俸給調整されて支払われている情報を網羅、賞罰等の記載もあったりします。こんなこと、例えば、民間でA銀行からB銀行に転職する人がいたとして、元の銀行に転職することを承認してくれ、今までのキャリアや給与がどれくらいだったかも教えてくれ、のような個人情報管理上ありえない話が大学ではまかりとおっています。確かに個人情報上やってはいけない気もします。

そんな割愛依頼の制度にもメリットがあって、他機関(大学)がオフィシャルに人事上の要望を今いる大学に言えること。割愛される教員も退職する理由が明示できてごちゃ言われることもなくなります。

もちろん割愛依頼を受ける側の大学は、それをお断りすることは可能でしょうが基本的には承諾せざるを得ません。前向きによく考えれば、送られてきた大学側は、その文書を活用して、教授会や全学会議での承認を得やすくなると思えます。ただ、暗黙の礼儀として、4月採用の割愛依頼を1月あたりに送ってこられると、次年度の履修計画が決まりシラバスも出来上がっている頃なのでかなりの迷惑行為。割愛される側の大学は、玉突きで穴の開いた科目の教員を手当て等至急行う必要が生じます。そんなこともありイメージ的には10月11月くらいには採用の決定をこそっと内示してきれいに辞めれるように事前準備してもらう方が良いかもしれません。

割愛がなくても良い場合

教員の転職話って以上のようなプロセスを踏まなくても(普通の労働者なんだから)労働基準法のプロセスに従って退職し、次の勤務地へ行っても良いものと思えますが、困ることも。

大学の教員ってその仕事は非常に細かいフィールドで生きているわけで、例えば工学研究科のマテリアル工学で教授をしていて、違う大学で法学研究科国際法担当の教授になることは絶対にありません。つまり割愛される教授は、転職先でもマテリアル工学の分野で勤務することになり、今後もどこかの学会や研究会等々で関係する人物と出会うことになります。その時に異動でもめたというのもアレですので円満に割愛手続きを踏んで平和裏に進めるのが良いのかもしれません。

不要論の人の考え方は、割愛行為は国家公務員時代の名残(官職を維持したままでの他機関へ異動する手続き書類)で、今現在のような(一応)誰でも自由に行きたいポジションへ応募し採用してもらえる時代になったのに機関同士で人身売買的なやり取りすることへの違和感を感じるのかもしれません。また、割愛を行う教員は、教授・准教授クラスで全国的にもそれなりに知られた存在の人。今現在職を持っているにしても助教やPDレベルの研究の人にわざわざ割愛を求める意味は現実的には不要といえます。

まとめ

完全にまとまりませんが、それでも大学では教員異動の際のプロトコルとして活きています。大学で働いている教員・事務職員の人にも目にする機会は今後もありそうですのでちょっとした知識となれば幸甚です…。