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日本の大学 今 未来

令和4年度 第19回日本学術振興会賞の受賞者の状況について考えてみる

筆者は、昨年、学振の顕彰事業については育志賞について書きました。2022年12月に発表された2022年度日本学術振興会賞についても筆者なりに考えてみます。この賞は大学院博士後期課程レベルが対象の育志賞よりもう少しキャリアが進み(イメージ的には40前後)で、これからの研究成果に期待を持てる研究者を懸賞。このようなこともブログで取り上げる人は僅少だと思いますが引き続き書いてみます。

研究者への顕彰事業の必要性

筆者は何度か書いたかもしれませんが、日本は大学や研究機関で一生懸命研究した成果をよくがんばったね!とほめて表彰してくれる仕組みが多くありません。あるとすれば各学会やそれに関わる企業・財団、そして国代表として学振で行っている顕彰事業のいくつか。ですので、日本ではノーベル賞を受賞したら大騒ぎしますが、それ以外の海外では高く評価される賞を受賞することがあっても普通の日本の人たちはよく理解できないのでへぇ~っ!程度で終わってしまいがち。

その面では、地道に日本の学術研究の将来のリーダーと期待される若手研究者を継続的に顕彰して公表することは非常に価値のあることだと思います。

東大ばかりなのをどう考えるか?

で、今年度の状況は、ですが、というか、傾向は過去から同じで、東大に関わってきた人たちが多数。

日本には、約800くらいの4年制大学があって、その中の多くには大学院も併設されているはず。その大学院もⅯ(修士)だけでなく、Ⅾ博士(後期)課程もあって博士号を取得できる大学(院)もかなりの数があるはず。なのにこの賞の受賞者の出身大学院は非常に高い割合で東京大学、もしくはそれ以外の旧七帝で独占されています。

このことについて、文科省&学振に不満を持つ人たちは、いつも東大ばかりの依怙贔屓(えこひいきの漢字表現はこれみたい)する!とご立腹されます。同様に学振が行う科研費の審査とその採択・配分についても東大ばっかりだ!と不信感あらわ。学振に学術システム研究センターが出来、科研費のような審査体制の透明化を図って20年近くになります。審査終了後公開されている、(科研費の)審査委員ってかなりバラバラの大学等の出身者から選ばれ(見た目上は)東大ばっかりという印象はなくなりました。また、(筆者の知る・聞く範囲で)弘済会館(ただいま新築工事中)で行われていた様々な科研費や特別研究員の審査においても(合理的な範囲の中で)一つの大学(東大)に偏らないような工夫が(何気なく)行われていたと感じます。また、わかりやすい事例として、2020年度にこの賞を受賞した斎藤幸平さんは、ほぼ日本の大学とは接点なしでしたが、それでもちゃんと選考の中で選ばれています。(でも今は東大に身分になりましたが…)

それでも、東大関係の採用が減らない理由の一つに、(筆者の考えでは)科研費でも特別研究員等の採択でも書類申請を行った際、書類を出してくる教員が東大所属だと、審査する(ピアレヴュー)側の先生たちは、それだけで『あそこでは良い研究が行われている』『あの先生のもとで研究できるというのは期待できる』等々の安心感的なイメージが先だってしまうことも要因ではないかと思えます。

大学でやっていることを社会に知ってもらうことは大切

いろいろな要件があるにしろ、それでも、これだけ大きく東大一辺倒なってしまうことについては、やはり、日本における大学院教育・研究の立ち遅れを感じてしまいます。最近よく言われることに、日本は各国の人口比の中で博士号・修士号の取得者数はかなり少なめ。また、例えば、日本には名刺に〇〇博士の肩書を入れる文化が育たない国。日本人の多くが大学での学位制度の価値を軽視しているのが原因の一つと思えます。

学部学生の就職についても同様で、企業側は大学で何を学んでいたかについては関心は低く(もしくは学生のアカデミックを拾いあげる能力が企業側が低いので)、意味不明な公平性の観点から(大学で学んできたことなんかどうでも良くて)全ての学部で応募OKのような仕組みが大半。ですので、選考方法は、首都圏ならMARCH、関西圏なら関関同立のような偏差値に依存した大学序列でしか大学を評価できず、大学の中で何を学んできたかについてはなく、ただ大学名で採用してしまうことになるのだと感じます。同様に博士学位のステータスについても、博士学位取得のためのプロセスや研究内容の価値より学位取得証明書に基づいた採用ではなく、『博士学位取得者には〇△円手当がつく』的な給与支給の際の判断程度の意味付けしか思われていないのではと感じます。

筆者のような大学関係者側のような立場から言わせると、企業側も、文系学部出身大学生を募集するなら、例えば『法学部で民法709条の不法行為を専門的に学んだ人』とか、『(筆者みたいに)法学部で独占禁止法や不公正な取引方法について専門的に学んだ人』とか、経済学部なら『最新のアジア経済の動向を学んだ人』とかでカテゴライズした学生を集めて面接をし、それぞれ60分くらいプレゼンと質疑応答をすれば、(採用者側の見る目がしっかりしていれば、その場しのぎのつけ刃的な知識では通用しないので)優れた人材の獲得ができると思うのですが…。この考え方は学部・大学院共通で、海外の国ではインターシップと同様よく行われている手法だと思います。

まとめ

いつものとおりまとまらないまとめですが、このような懸賞を通じて大学・大学院で何が行われていて、それがどのように社会に還元されているか、どのように役立つのかを地道に知ってもらうことはとても大切。また、大学自体も、外部へは入試広報のようなものだけなく、卒業する(した)学生がどのような知識を得、どのように社会に貢献できているかを知らせることも重要なテーマになってくると感じます。

 

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