FOU’s blog

日本の大学 今 未来

薬学部に定員抑制の方向性のお話が出たことを考えてみる

この先10年間くらいに関わる薬学部のあり方について、文科省で会議が行なわれ方向性が決まりました。基本的にはこれまでの反省にたって薬学部の新設は認めないことに。too late と言えば too late ですがいつかはやらないといけないこと。※いろいろ書きましたが内容的にたくさんの方が関心をもってくれるような内容ではありませんが、今大学で何が起こっているか知っていただくことの一つにでもなればと思います。なお、筆者の古いブログのとおり、約5年間、私大薬(4年制の頃)で教務・学生・入試関係のお仕事をしてきました。

まず『とりまとめ』 At a Glance

何がどう変わるのか? ーとりまとめのポイント-

↓ とりまとめの現状分析(日本語→日本語(筆者の意訳含)Google Translate風) 

平成18年から6年制薬学部が始まり、その認証評価時の課題も整理が出来てきた。厚労省からも今後の薬剤師のあり方や供給過剰の話も言われてるので、この委員会で13の薬学部の関係者にヒアリング等々をやって問題がどこにあるのか洗い出しをして問題はないか考えてみた。

その洗い出しの結果、今の薬学教育の問題点がでてきた。薬学部の数は、平成15年くらいから一杯ふえた。数は増えたけど全ての学部を合算した入学定員自体は12000人弱くらいで推移している。その入学定員の機関別内訳は国公立大で約10%、私大で約90%。問題のあるのは私大で、入学定員割れの学部もあるし、そこまででもないにしても志願者数の低下しているところが増加してきた。そんな状況なので、私大における標準修業年限内(6年)の国家試験合格率が良いところと悪いところの差が大きくなった。それに加えて、薬剤師の地域偏在性、病院薬剤師の不足も気になる。だからいろいろ変えていかないといけない。

薬学部教育の改善・充実の方向性

⓪概論

前項の洗い出しによる論点整理に基づき、どうしたらいいのかの解決策を導き出しています。※以下は筆者のとりまとめに関するポイント提示。対象になるのは(なぜかはっきり書いていませんが)私大が中心。オリジナルのとりまとめはA410枚ですが、後の方になるにつけたいしたこと書いていないのでさらに軽くしていきます。お読みの方は専門用語が増えてきますががんばってついてきてください。オリジナルを読むよりは分かりやすいつもりで書きます。多少意訳もありますので必要に応じてオリジナルと見比べてください。メディアは薬学部の定員抑制を中心に書いていますがそれ以外にもいろいろ提言はしています。

①入試は薬学教育開始のキモ

入学者選抜は、いわゆる3ポリ(各大学が作るディプロマ・ポリシー・カリキュラム・ポリシー・アドミッション・ポリシー)により行うものであることを再確認する。

まず、明確なアドミッション・ポリシーを作ることが必要。なのに、一芸入試的なものや留学生入試に依存したり、授業料を減免する特待制度による入学制度もあるが、それぞれデメリットを検証する必要がある。また、入学者の低年次での留年・退学者が多い大学もあるので、(早々にドロップアウトした)学生へのリメディアル教育(高等学校課程の補習教育)のようなケアも必要。

②入学定員抑制への取組み

入学者選抜の際の実質競争倍率や入学定員充足率が低い大学が多数存在することへの心配と将来的な薬剤師の供給過剰が気になってきた。今のところ薬学部の新増設は自由にやってこれたけどそろそろ考え直す時期にきた。標準修業年限内の卒業率・国家試験合格率が全国平均を大幅に下回る大学も存在しており、教育の質の維持・確保に課題がある。定員未充足の大学に対しては、私学助成について、減額率の引き上げや不交付の厳格化など大学毎のメリハリある財政支援をする。ただし、ただし例外的に地域的なサポートは必要。

教学マネージメントの確立

改めて3ポリをしっかりしてPDCAサイクル(役所はこの言葉が大好き)で確認しFDやSDをしっかりやる。薬学教育モデル・コアカリキュラムも悪いところがあれば変える。

6年制課程入学者で、諸般の理由で卒業できなかった者(退学者の意)について、大学は助言などして科目等履修生のような単位互換措置で一定の単位を取得してもらい、(独)大学改革支援・学位授与機構の審査より、同機構による学士(薬科学)の学位授与が出来るよう工夫してあげること。

情報の公開をすすめる

大学は、入学者選抜に関する情報と標準修業年限内の卒業率及び国家試験合格率、各年次の留年率、第三者評価の結果等々を、ホームページなどを用いて、関係する人たちに公開すること。

薬学教育評価(第三者評価)への対応と情報の公開

機関認証評価(一般社団法人薬学教育評価機構による)の結果は、ホームページなどを用いて、関係する人たちに公開するとともに、指摘事項については速やかに改善する。

(とりまとめの)おわりに

 薬学教育の質の向上にあたっては、質の高い教員の確保も大切。6年制課程卒業後の4年制博士課程への進学者は、卒業生の 1.4%程度に留まっているので、薬学教育と研究が出来る人材不足が心配。

※答申10ページに誤字発見(2022.8.12現在)筆者も多いですが、記録としてあとあと残りますから文科省さんしっかりしましょう! → 4.おわりに 部分の1行目:6年課程終了後~→6年課程終了後 

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『とりまとめ』結果について、今後の影響等々を考えてみる

メディアでも結構取り上げていたので期待していたのですが、読んでみると書かれている内容は、いまさら感の方が先立ってしまいました。まあ、やはり、それでも、やらなきゃいけない事だと思います。

ポイント1(沖縄等地域偏在性解消分の大学を除き)確かに、これ以上薬学部がある必要はありません。その理由は非常に簡単で、このとりまとめにも書いているとおり、既に定員割れ、定員ギリギリの出願者しかいない大学が結構あること。それが原因(の一部)として考えられる、入り(入学)の段階で薬剤師を目指す薬学教育についていけない学生がいる原因で早い時期からの退学や留年が生じる理由だと思います。

非常に悪い事例として兵庫県。そう広くもないエリアであるJR神戸線沿線の西宮市・神戸市とその続きの姫路市に、神戸薬科大(神戸市)、武庫川女子大薬(西宮市)、神戸学院大薬(神戸市)、兵庫医大薬(神戸市)、姫路獨協大薬(姫路市)と私立薬科大が5つも乱立しています。文科省兵庫県も新設する薬科大がある場合、別の場所なら認可するとか工夫をすべきでした。こんなことをするから優れた受験生を相互に共食いして受験生の質の低下を招き共倒れへの方向へ進んでしまいます。

その、うまくいっていない大学への対応として、3ポリをしっかりやれ、PDCAサイクルを機能させろ、定員充足率未達の大学には助成金減らすぞ、とも書いています。

大上段から言うと、今の日本の状況で、今以上に優れた受験生を求めるのはムリ。ざっくり言っても大学入試をする際、全体で1万人を薬学部入学定員とするなら、しっかりした受験倍率を形成するためには3万人以上(3倍)の潜在的出願者が必要になります。日本の18歳人口の減少の中、それだけの優れた受験生を確保出来るのか?は、既に結果が出ていて、ハードルを下げて入学してもらっても先に記した早期の退学・留年者の発生で状況が把握ができています。対策としてリメディアル教育(高等学校課程の補習教育)?をやれとかも書いています、が、そもそもこのレベルの学生を入学させることが問題。これでは受験生&学生が大学と薬剤師制度の犠牲者になってしまいとても可哀想です。その受験生側も甘い言葉を投げかけてくる大学を安易に信じて入学しないこと。ちゃんとした薬剤師国試の合格実績のある大学を見つけ出し浪人してでも選ぶべきだと思います。

私立大薬学部の問題点は

このとりまとめの中で、国公立大薬学部の諸問題については、全く記されていません。ですので、学生の9割を占める私立大学薬学部にいろいろ問題があるというスタンスで提言があると理解できます。

文系学部なら、定員を充足させるため(安易にデキの悪い学生の)入学者を増やしてテキトーに授業させて(勉強ができなくても)サッサと4年で卒業してもらう、というのが大学側にとっては一番の楽勝パターン。この手を薬学部では使えません。学力の低い学生だと薬剤師国試に合格しないことが目に見えている→そのためハードに授業する→基礎学力のない学生だと負担が増し留年生も増える→大学がいやになって退学する、という負の連鎖が現在の私大薬学部にはあります。 

また、私大薬学部の研究力の低下は、大学側のベクトルが薬剤師教育にしか目がいっていないからであり、そんな私大に薬剤師になれない4年制薬学部や大学院を機能させようとしても、受験生本人・家族の相場観から『+2年がんばって薬剤師の資格もとれば?』となる。大学自体も薬剤師教育に手一杯の状態で、薬剤師教育を行なわない全く別個のカリキュラムで4年制学部を作ったり大学院教育を充実させるような、質の高い教育が行なえるのか(どうみてもできっこないと感じるので)慎重な検討が必要になると感じます。

厚労省・薬剤師会側も身を削る努力を

薬剤師の職能に関して、大学卒業&薬剤師試験合格後、すぐに完成形の薬剤師になるようにしろと大学側に求めすぎ。医師の初期研修制度のように大学卒業後も定期的な資格・研修制度を行なうような仕組み作りはとても大切に感じます。

これだけ薬剤師教育をさせて薬学部を混乱させておいて、さらに薬学の教育人材が減っているのでなんとかしなきゃ、と言われても、あんたらのせーやとしか言いようがありません。

筆者が思うに、薬学部の授業って本当に面白みがありません。その理由は、授業・演習・実習全てが座学(座って聞くだけ)中心の授業ばかり。全ておぼえるだけ、おぼえたら勝ちの世界。先生に質問等投げても返ってくるのは(答えは決まっているので)テキストのココをよく読んで的な進め方。良心的な?薬学部だとさらに足りないところは、予備校の先生による補習までやってくれます。彼のマイケル・サンデル先生がこの授業風景をご覧になったらたらショックで気絶してしまい長期の入院加療が必要になるかもしれません。

沖縄県での薬学部設置 ー地域によっては薬学部新設の余地ー

筆者の過去のブログでも取り上げていましたが、特定の地域にのみに薬学部の偏在性は、薬剤師等が日本の隅々で働きやすい状況になること大きく妨げています。今回のとりまとめにも、薬学部の地域偏在の問題は取り上げられ、薬学部の定員抑制を行なう中でも一部地域では薬学部の新設を可としています。

そこで上位に必要性を感じる場所が沖縄県。本島以外にもたくさんの島があります。医療もそうですが薬事業務も当然大変だと思います。医療については、琉球大学医学部がありますが、沖縄県には薬学部はなし。そこで、沖縄県さんも沖縄に薬学部を作りましょう、の業務報告書を作って論点整理をしています。その中で作られた検討委員会には(うまくいった)先行新設薬学部代表として、太田さん(和歌山県立医科大学薬学部長)が参加されています。

方向性は『県内国公立大学への薬学部設置の必要性について』という議論ですので、新設私立大学薬学部ではなく、既存の県内国公立大へ設置を目指すもの。確かに今さら沖縄に新設の私大薬学部を作るのは無理筋なのでこの考え方は妥当。また、既存の県内国公立大って言い方は、現実的には琉球大学を指すことになりますが、この大学には医学部・附属病院もあるし入学当初使える共通教育課程を使わせてもらえるし、図書館・食堂等々も(厚かましいですが)その利用が可能。国・文科省的には、地方国立大は現状維持か現状維持の中での改革(奈良の国立大がその例)が基本です。しかし沖縄については、多少異なる余地があると(筆者は)感じます。例えば恩納村に作った沖縄科学技術大学院大学などがその典型。

沖縄は、他の地域と異なり、様々な理由で政府も予算をつけやすく、国民の同意も得やすいので、うまくそれを利用してどんどんよいものを作れば良いと思います。筆者個人的には、現在の琉球大内に薬学部を設置し、石垣島あたりに研究所的な附置施設を作れば県民の方も喜ぶと感じます。新設薬学部の人材についても(どこから来てもらっても良いですが)九州地区には九州大を筆頭に優れた国立大が複数あるので、それほど困難さは感じません。

沖縄の事例は、話が動き出したらサクサク進みそうですが、他にも東北エリアや鳥取・島根のような山陰エリア、四国エリアについても心配なところがあります。今後(進捗があれば)沖縄や和歌山の事例を参考に地域での薬剤師のあり方を考えて行けば良いと感じます。

早急にしっかりした情報公開を!

このお話は、筆者も過去に散々書いています(下に貼り付けています)。留年者数、退学者数、標準修業年限内(6年)卒業者数のような数値を見せないで薬剤師国試の合格者数のみ誇張するやり方はデキの悪い薬学部の常套手段。最近の大学のHPはとてもキレイですが、本当に必要な情報の抜け落ちている大学はたくさんあります。

筆者とすれば、今回のとりまとめに準拠した形でHPが機能しているか見ていきますが、受験生本人、高校の先生や予備校の関係者たち、受験者の家族等々のような方々も目を光らせて、正確な大学の実態が公表されているかを把握する必要があります。

情報公開のキモの部分は、在学生の正確な退学・休学・留年・卒業までの在学期間情報等々、薬剤師国試に関する正確な合格・不合格者情報等、そして大学認証評価の結果の確認はとても必要。反対にこのような情報が載っていなかったり、見つけにくいところに忍ばせている大学は不誠実さを感じますので疑いの目を持つことが必要です。

確かに情報公開を行なう側の大学としては、自分のHPを使って自分の大学は留年生や退学者が多くて薬剤師試験も合格率が低いです、と、事実上書き込むことになりますのでイヤなのは分かりますが、第一に受験生Firstでやらなきゃなりません。(筆者個人的には)悪い情報も十分に理解したうえで入学してくる学生の方が将来への覚悟を感じて期待ができます。

まとめ

筆者は、薬学部について書くと、あまり良い未来を語ることできません。将来に向けて確固とした目標があればその道を突き進めば良いと思います。今現在の自分が、数学や化学、物理、生物の学びに自信があっての(行き先を決めていない)漠然とした大学探しであれば、薬学部以外の選択肢もいろいろ探してみることも必要だと思います。

薬学部教育の質保証専門小委員会(第7回)令和4年7月22日(金曜日)14時00分~16時00分 Web会議  ※基本的には資料1・2のとりまとめ案をみれば現状と改革の方向性がわかります。それ以外はその根拠  

www.mext.go.jp

薬学部の認証評価はここでやっています

www.jabpe.or.jp

沖縄県が行なう薬学部を県内に設置出来ないかと調査報告書。筆者個人的にも必要性を分かりやすく書かれていると感じます。

www.pref.okinawa.jp

最近ちょうど和歌山県の薬学部の設置について取り上げました。基本的にはうまくいきそうな薬学部

fou.hatenadiary.jp

筆者が数年前に書いた薬学部の評価。特に薬学部受験を考えている受験生を抱えるご家族等はご一読されることをお勧めします。(高校生には記載の理解がキツイかもしれません。)

fou.hatenadiary.jp

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