FOU’s blog

日本の大学 今 未来

和歌山県にある大学 紀の国で薬学を学んでみる

和歌山の大学事情も大変なんです。奈良同様、和歌山も若手大学職員が集まってどうやったら高等教育を活性化できるか等々議論したら盛り上がるかもしれません。今回紹介する新設薬学部は筆者個人的には2000年以降新設された薬学部の中では一番マトモで良くできていて、八方よし?的に期待が持てる学部だと思います。

和歌山の地理を再確認してみる

奈良同様、大阪平野部から和歌山(市)方面に行くには、和泉山脈を越える必要があります。和歌山市方面へは天王寺からのJR阪和線と難波からは南海(本線)の電車が走っていますが、JRは山中渓(やまなかだに)というところを抜けて和歌山市内へ、南海はもう少し南の岬町から和歌山市内に入ります。ちなみに和歌山大学は、(和歌山と言っておきながら)大阪府岬町スレスレのところにキャンパスがあります。このルートが主要なルートですが紀伊山地方面へ行くルートも。南海高野線では紀見峠を抜けて山の中へ入り和歌山県橋本市へ向かうルートも。こちらの終着駅は高野山。そんな自然現象に影響を受けやすいルートを走る電車が多いので、動物との接触・落石・倒木・大雨・強風などの理由で電車が止まることががよくあります。

和歌山県の人口は約90万人、一番人口が多い都市は和歌山市の35万人くらい。その隣接地域と紀の川沿いを入れると人口の半数以上は和歌山北部に住んでいることが分かります。それ以外の人たちが住んでいる地域は、海沿いに有田市田辺市、串本市、御坊市などがあります。沿岸部以外は紀州山地の山の中。奈良県三重県と微妙に県境が重なりあいながら、高野山(和歌山)、洞川(奈良)、吉野(奈良)、十津川(奈良)そして大台ケ原(三重)等々の村々が点在しています。この紀州山地は、今でもほんとに険しい山の中で黒潮の影響をうけた太平洋岸型気候でたくさん雨がふるところ。そんな地域ですので、あんまり人は住んでいません。なお、最近ではそんな山の中の古くからの道が霊験あらたかな熊野古道をとして見直され訪れる観光客たちは増加中。

地政学的に和歌山を考えるうえで大切なことは、京阪神から和歌山県に普通に行くとすると最初に出会うのは和歌山市。でも、ホントの和歌山はここからが始まりで、新宮まで延々と海岸線がつづきます。観光的にいえば、パンダがたくさんいる白浜アドベンチャーワールドさんが有名。ちなみに南紀地域に一つしかない白浜空港という空港があります。飛行機で羽田から白浜へ行くなら大阪から行くよりも早く到着できるメリットも。特産品は、みかん、梅(干し)、柿などは関西では有名。水産業的にはマグロの水揚げが多く、最近では近大さんがやっている養殖マグロも有名になってきました。また、磯釣りやスキューバダイビングに行く人も結構います。

和歌山の大学を探してみる

そんな和歌山の大学探し。web上のmapで和歌山県+大学でググればすぐに結果が判明。大学のほとんどは和歌山市紀の川沿い、その周辺に集中。あとは高野山にある高野山大学。その他は海沿いに近大の水産系施設などがちらほら。筆者として興味深かったのは、看護師養成施設。和歌山市には、看護学部のある大学はありますが、南にいくと公的病院に併設された3年制看護専門学校が数校あるくらい。こんな感じで和歌山は南へ行くと(遊ぶところはありますが)学校のような学生がたくさん集まってくれそうな場所が少ないことがわかります。

その中で筆頭格の大学は和歌山大学。ただ、大規模総合大学ではなく、師範大学の流れをくむ、教育学部、経済学部、そして経済学部から派生してできた観光学部、理系では重厚長大タイプでない工学部で構成されています。規模的にも在学生の総数が4000人程度ですのでこじんまりとした感じといえます。そして医療系は和歌山県立医科大学がほぼその全てを担っています。一応、筆者は和大と県医大と再編ができないか考えてみましたが、どちら側にもそのメリットは無さげなので、同じ県内大学間という縛りで仲良くやればと感じます。※この大学の規模だとヘンに統合したら学長選挙でいつも数で勝る医学部出身者が学長になりつづけることになり雰囲気が悪くなるかもしれません。

あと、別枠で高野山大学。日本には仏教系の私立大学が結構ありますがこちらが一番個性が強そう。筆者個人的には、特に大学院でどんな研究をして、どんな人が主査や副査をやって、どんな論文審査をして学位授与が行なわれているのか、かなり興味があります。弘法大師様が眠る地で学びを深めてみたい方は是非。

薬学部誕生

和歌山県では、長くこのような状態が続いていましたが、2021年4月に和歌山県立医科大学内に県内初の薬学部が誕生。このあたりって、県知事さんが経産キャリア出身の人なので良い意味で県の状況、将来への気づきがあったのかもしれません。公立大所管の薬学部は、県立静岡大、岐阜薬科大、(名前の長い)公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学に次いで4校目。関西圏でといえば京大、阪大に次いで3校目の国公立大学が経営する薬学部になります。ご承知のとおり?筆者は、薬学部・薬学教育に関しては辛口で、なおかつ公立大学にも(特に最近)あまり良い評価はしませんが、この薬学部はおススメできます。

【八方よし】筆者が考えるこの薬学部がうまくいく理由がたくさん

筆者は、この薬学部を開設するのにマイナスポイントを見つけることができません。筆者が書き出すと、話が長くなるのであまり書きませんが、そのかいつまんだポイントとして以下を感じます。(次の滋賀県では三方よしで表現にしてみます)

・設置する趣旨が明白⇒和歌山県には薬剤師が必要なのにこれまで薬学部がなかった

・近隣に競合する大学(薬学部)もない

地方公共団体・地域社会からの期待が大きく様々な支援を受ける地盤がある

・開設する大学には大学病院があり、また、公的病院での実習・研修も行いやすい

・授業料は薬学部で全国最安値⇒優れた学生を招き入れるインセンティブとなる

等々がすぐ思い浮かびます。その中でも、論点整理すると、

和歌山県初の薬学部

さきにいろいろご説明をしたとおり、和歌山県は人口の少なくて結構広い地域を抱え、高齢化も進んでいています。そのような状況なので、医師もそうですが県内各地に優秀な薬剤師がいてくれることは非常に重要といえます。場所柄、他のエリアから薬剤師のような医療人材を確保するのが厳しいので、自前で養成する必要性が生じてきます。新薬学部は、優れた学生が集まりそうなので、研究者養成も可能なレベルだと思いますが、当初は地域密着型の薬剤師の養成が中心になると感じます。

②コスト面で様々なアドバンテージ

現在の私大薬学部は(例外なく)高コスト化が進んでいる背景があり、特に関西圏では、金銭面に不安があって薬学の学びに躊躇する受験生にとって、この大学の出現は大きなインパクトになります。薬学部自体はたくさんあっても関西圏でこの金額で薬学で学べるところは、他には京大と阪大しかありません。授業料がすべてとはいいませんが、近隣の私大薬学部と比べ、4倍以上の価格差が生じることになると、和歌山県以外にもこの薬学部を目指す受験生は増えることが予想されます。このあたりは、人気が生じても仕方ないところですが、県立大ということもあって、県内枠の学校推薦型選抜のような和歌山県の人を対象としたインセンティブとなるような入試もあるようです。あとは、どこの国公立大でもやっている授業料減免措置などもとりあえず申請してみたら、家計状況にもよりますが、全額、半額の授業料の減免を得られるかもしれません。

もう一つ、和歌山ならではの魅力が京阪神地区と比べ物価の安い地域性。学生寮は整備されていないようですが、和歌山市内でもかなりの安価でワンルームを借りられます。食事も安価。これであとチャリか原付でもあれば楽しい6年が過ごせると思います。

このように、全てがうまくいくのは県立の薬学部だから。多分、普通に同じ場所に私立の薬学部を作っても残念ながらうまくいきそうにありません。何かのインセンティブがなければ優秀な学生も、そして教える側の教員の優秀な人材も集めるのは困難だと感じます。やはりこのような地方都市では、県や国がパトロンとなって大学を作るしかないと思えます。この和歌山の事例、今後の地方でどのように大学を活かすかについての良いモデルケースになりそうです。

③ゼロから作るとメリットもあり 教えてくれる先生たちもしっかりしてそう

ゼロから学部を作る時、その大学は文科省設置認可申請という分厚い書類を提出します。大学事務職員で経験者の方はよくご存じだと思いますがこれが大変。提出したら終わりじゃなくて何度も何度も文科省に呼ばれて怒られて加筆修正を求められます。指摘事項は多々ありますが、その中でも新設学部で教える教員の個人調書というものがあって、常勤となる教員を中心にすべての先生の経歴や研究業績がチェックされます。そのため、大学は一生懸命、全国から優れた先生を探さなければなりません。

この書類作成は、新しく学部を作るときが一番ハードで、それ以降も定期的に第三者機関による大学認証評価の中でチェックが行なわれるこになります。検査ですぐに指摘されるのが教員の年齢構成。(ずるい大学は)60歳越えの他の大学で定年を迎えた先生をたくさん雇用して(退職金等安く済むので)人件費を抑えることをよく行なっています。ですから、そんな大学で授業をうけると70歳越えの(盛りを過ぎたと思われる)先生たちががんばっている姿を多く見かけます。大きな声ではいえませんが、こんな調子で教員を集めてどうみても質の悪い(ように見える)授業をやっている私大薬学部なんかも存在します。人生百年・一億総活躍の時代に年齢でのみ括ってしまうのは良くありませんがバランスのとれた教員の年齢構成は文科省も求めているところ。

で、そんな文科省の指摘を乗り越えて開設した新設薬学部。筆者がHPを見るに、教授をトップとした各研究室の年齢構成を見ると(良い意味で)50歳代を頂点とてバランスの良い配置がなされています。また、出身大学も京大、阪大、そして西日本の国立大学薬学部を中心に集められています。このことについて、筆者の取得できる情報源はHPからとなりますが、眺めている限りよく頑張ってこれだけ揃えたもんだと感心します。

④学生の質の高さが6年間の苦難を和らげる

今行なわれている薬剤師国試というもは、薬学部入学時の学力・成績を基本として6年間の学びで積み上げられたもの。それにも関わらず薬剤師国試合格に(6年の学びでは)見合わない学生の入学を受入れている私立大学が多いことから現在の困難が生じています。反対に、京大や阪大の薬学部の学生が薬剤師国試で1年生から一生懸命させられたという話も聞きません。現に(古めの話ですが)筆者が大学生だった時の知り合いの金沢大学薬学部の学生は、(4年制薬学部の時代でしたが)4年生の12月まで卒論で忙しくて、薬剤師国試でどんな科目から問題が出題されるかも知らない状態、それからエンジンがかかって猛勉強して試験に合格したとのこと。現在は某公立病院の薬剤部長をしています。

これまでも別の項でも散々書きましたが、大学入学時点で、6年先の薬剤師国試の合格レベルに学力が達していない学生たちは、大学に入ってからもずっと苦労し続けます。この新薬学部の入学者の場合、そのポイントがクリアされているので、薬学の学び自体は普通に大変でしょうが、一部私大薬学部でのような末期的症状とは無縁だと思います。

fou.hatenadiary.jp

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まとめ

結論からいってこの新薬学部はうまく行く要素が満ちています。そうだから、筆者からのお願いしたいこと?が一つ。日本国内で開設された大学ですから、全国から誰でも出願し、入学することが可能。どこに就職するのも自由。特に国立大ならそれでOKですが、この大学は、和歌山県が設置、開設者の意図は和歌山で活躍する薬剤師が育ってもらいたい、ということに主眼をおいています。各学生にはそれぞれにFuture Plan はあるでしょうが、卒業後も和歌山との関わり合いを何か少なからず持ち続けてもらいたいな、と感じます。

おまけ情報 猫駅長とパルテノン神殿のお話(ほぼ関係性はなし)

いろいろ書いてきましたが、筆者はあまり和歌山へ行ったことがありません。行くとすれば高野山の方が中心で、和歌山市方面に行ったのははるか昔、和歌山電鉄貴志川線貴志駅の猫駅長のお話で盛り上がっていたころに遡ります。当時は初代猫駅長(三毛猫たま)が亡くなった頃で、駅舎には在りし日の写真が何枚も飾られていました。そんな写真を何枚か撮影した記憶があるのですがどうしても見つかりませんでした。そのため替わって、同じ三毛猫がいたパルテノン神殿の写真を。ギリシャに行ったときはギリシャ危機の影響が長引いていたころで、観光客の姿はまばら。そんなパルテノン神殿を一匹で見守っていたのはこの凛とした三毛猫。(そんなに動かないタイプの猫なのですが、なかなかお顔を見せてくれませんでした。)

【写真1】

【写真2】