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日本の大学 今 未来

薬学部 今 未来を考えてみる その2 まなび編

薬学部教育の二極化 薬学研究は国立大学、薬剤師教育は私立大学
同じ薬学部なのに国立大学と私立大学では、そのまなびの姿は大きく異なります。  国立大学薬学部に課された存在意義・役割、大きく分けると、学生への専門的な薬学教育の提供、それぞれのフィールドでの専門的な研究、さらに旧帝大のような上位の大学では薬学の専門的な研究者を養成をすることです。そのように多様な目的を持つ大学(学部)ですから、薬剤師養成に関する事項は、たくさんある目的のうちの一つに薄められます。反対に私大薬学部の目的は明確、その第一も第二も薬剤師養成になります。ここが同じ薬学部でも受験生の将来を見据えた大学選びのポイントになります。

国立大と私立大の温度差を理解する 国立大では薬剤師教育は結果の一つ
東大でも京大でも阪大でも、どこの国立大学薬学部のHPをながめても一目瞭然、(6年制が主流になってきた現在でも)私大薬学部と比べての薬剤師という言葉の少なさ。薬学部長(研究科長)あいさつ、学部の理念、3ポリシーなどでも、その記載は、どのような研究・教育がされ、どのような人材を輩出するかに重点が置かれています。もし『薬剤師』という言葉を用いるとすれば、その前言に「高度・先端、専門的、指導的~」という言葉を入れ、薬剤師とは、臨床薬学教育の一形態であり、単なる薬剤師養成機関ではないことを意識しています。また、教員サイドも、それぞれの研究室でネイチャーやサイエンスのような学術誌に優れた論文をだそうと一生懸命。卒業後の進路の一つである『薬剤師になること』について、熱く語っているのは私立大学だけ、ということをアタマにいれておくほうが良いと思います。

薬剤師国試を大学受験に置き換えてみる
「薬学部入学=薬剤師になれる」の時代は終わりつつあります。18歳時点、国立大や有力私大に合格する実力がないとすれば、薬剤師国試も同様に(非常に高い確率で)合格できません。現段階で薬剤師国試に合格する学力が無いわけですから、選択肢としては、それでも国試合格率下位の薬学部に入って6年間頑張る方法、もしくは一浪して上位の(合格率の高い)薬学部を目指す方法、どちらも建設的な選択ではありませんが、6年制薬学部入学は、ゴールではなく6年後の国試への始まりに過ぎないことを意識する必要があります。

高校進学指導・大学受験予備校も受験生にさらなる情報提供が必要
高校進学指導でも大学予備校でも、受験生の薬学部選びに関して、目先の偏差値や科目・得点配分の有利不利のみ分析するだけでなく、それぞれの薬学部の入学後の状況、様々なリスクについて今以上に説明することが必要と感じます。特に薬学部は、一度入学してしまうと他の学部以上に取り返しがつかなくなること。薬学部入学者の複数回の留年、中途退学のような不幸を未然に防ぐには、入学前のしっかりしたインフォームドコンセントを行い、将来への納得した覚悟と決意をして受験もらうことが必要に感じます。 

中堅以下の薬学部を受験・入学するひとが理解しておくこと
高校時代の十分な基礎学力がないと大学でしんどい思いをすることを自覚する
薬剤師国試は、医療系国家資格の中でも在学中に学ぶ高度な専門的知識が試されることを理解しなければなりません。学びの期間も6年という長丁場、いったん入学すれば在学中に他の進路を模索することもできません。受験生は、これらを納得し(大学受験ではなく)自身に薬剤師国試に耐えられる基礎学力を有するのか自問する必要があります。現在用いられているコア・カリキュラムによる履修システムは、すでに相応の学力を有する学生には、様々なステップを踏みつつ効果的に知識と実習による経験を積み上げていくことができますが、学力が不足する学生には、その全てが負担になっていきます。現在、(多くの)私大薬学部は、(結果として)6年間の標準的な学びで、卒業・薬剤師資格取得が困難な受験生にも合格通知を出しています。薬剤師になるために、普通に学び、普通に国試の勉強をして合格するためには、上位10大学、悪くても20番代までに入学できる実力が必要。その学力が足りない受験生は、入学後、人一倍の努力が必要なことを前もって自覚する必要があります。

特に女性の人へ 他の選択肢もー工学部や理学部も悪くない-
薬学部を志望する人は、ある意味目的がしっかりしているともいえますが、(食わず嫌いで)他の選択肢として、工学部や理学部などの自然科学系学部で学ぶことへの関心度が低いのではと(長く大学で働いている筆者は)感じます。
一昔前までは、『リケジョの駆け込み寺』のイメージがあって、『才女』はなんとなく薬学部だったのですが、今はそうでもありません。(様々なオトナの事情も含めて)理工系学部は、女子学生の入学を歓迎していますし、受入れの環境作りも進んできています。また、ポピュラーな工学部や理学部以外にも生命機能などを学ぶことのできるような理系の学部も多くあります。意外に写るかもしれませんが、薬を研究、開発する分野は、薬学部に限られたことでは全くありません。
薬剤師教育という規制の多い薬学部より、医学部はもちろん、理学部・工学部などの化学、生命関係の分野でも人類のためになる医薬品開発は広く行われています。また、学部卒業後も本格的に化学や生命機能系の研究ができる大学院も多くあります。このことについては、高校生に近い世代の人にとって情報を得ることは少し難しいかもしれませんが、がんばってオープンキャンパス・説明会など多くの場所で自分に適した進路探しをすることは非常に有益だと思います。 

医歯薬系予備校との関わりで気になること
(ほぼすべての)私大薬学部では、国試対策としてプライベートな医歯薬系予備校による受験対策講義、予備校が提供する模擬試験を大学内の施設で実施しています。私大薬学部の『認証評価』をながめていて指摘が多い部分はこの部分。大学が、国試のため、通常の講義・演習・実習のような通常の授業に加え、国試対策に特化してサポートをしてくれること自体は、(大学における教育の範疇を超えていますが)薬剤師になることを前提に設置されている6年制薬学部では、『あってもいい』取り組みですし、『面倒見のよい大学』とも言えます。ただ、筆者は、大学で働いている者として以下の部分が気になります。

非正規で行われる講義の実施方法
(少し堅苦しいですが)予備校講師は、大学で正課の授業を行う資格はありません。そもそも外部の予備校業者に大学での講義?を依存することについて高等教育機関としてどうなの?です。従って授業時間割の中で(例えば火曜日4限とか)講義?を行うとすれば違和感があります。休業中なら夏休みに集中的に実施することも可能でしょうが、翌年2月実施の国試ということを考えればタイミングとしてあまりよく感じません。さらに学生に対して当該講義?へ出席を義務づけるとすれば、大学はその根拠を示すことが必要ですし、当該講義?への出席、レポート、小テストの結果により何らかの授業成績としての得点化や評価を加え、関係する科目の評価(優にするとか不可にするとか)することはあり得ません。(筆者がイメージする)大学の立場から考えるとすれば、正課の講義が終わった時間帯や(講義のない)土・日曜日などに通常の授業と分けて実施すること、仮に正課内に行うのであれば、実習なり講義なりの一環で、科目責任教員の立ち会いのもと、予備校講師が、不定期に一定の講義?を行うスタイルが社会的に説明できる最低ラインだと感じます。

模擬試験・成績情報の取り扱い ―予備校模試を受けた時の様々な権利関係―
国試補講に加え、多くの私大薬学部では、予備校が作った国試模試を実施しています。学生のメリットとして、本試験への練習であり力試し、自分のウィークポイントを見つけることができ、自分の実力を知るうえで大いに役立てることができます。そのような予備校の提供する模試とその結果について、(大学事務職員である筆者の理解では)大学側は、介入しないことが原則。大学の正課科目であれば、事前に講義・演習について、シラバスにより授業内容、評価方法を公開、その担当教員が、試験・レポート等を課し、その教員の責任において成績評価を出します。この評価結果について、他の教員や組織、大学関係者が変更を求めることはありません。一方、予備校の模試は、学生に対して任意で、なおかつ正課の講義中に実施しないでしょうし(してたらしてたで問題)、その模試成績を学生の同意なく大学側が収集し、何らかの活用をすることはありません(通常考えられる限界は学生へウィークポイントの指摘と指導あたり)。ですから、(一般的な)結論として、民間の予備校がやっている国試模試の成績が、大学の講義・実習・演習等の科目の成績評価の一部に、場合によっては、進級判定に加算されたり、卒業(留年)判定の参考資料として用いることは、絶対ない、はずです。

同時に、講師を派遣したり模試問題を提供する予備校の立場。当該大学で行う講義や模試で得ることができる情報は、国試のプロでもある予備校側にとっては濡れ手に粟、関わった大学の学生がどれくらい薬剤師国試で合格できるのかの情報を得ることができます。さらに、場合によっては、複数の大学の学力の相関を知ることも可能。当然大学と予備校との間では、学生の個人情報が、漏洩し予備校の資産にならないよう一定の守秘義務を課しているはずですが、学生個人の各種成績データが、外部に漏れ、別の用途に利用される恐れはないか?が、気になるポイント。
大学の国試対策委員会(的なところ)で、(ないこととは思いますが)先生たちが、模試の結果を眉間にシワを寄せてながめながら、「これじゃ△▲さんは本番(国試)は無理そうだから留年にしましょう」なんてやっていたら大学教育の終焉。このあたりは、『そんなことは当たり前でやっていない』ことをオープンキャンパスなどで直接大学の人に確認してみると安心感がひろがると思います。

みんなに熱心にしてほしい 同じ大学なのにダブルスタンダードすぎる
(総合大学でよくある話)薬学部は、どこでも「国試対策とその結果に必死」という状況は、理解した、として、じゃあ、なんで違う学部(特に文系)の卒業については、ユルユル楽勝でOKなのか?それはそれで文系学部学生軽視の表れでもありどちらの学生に対しても失礼なダブルスタンダードに感じます。大部屋で一方通行的な講義ばかりして、4年で苦労もさせずに卒業できる仕組みを放置しておいて薬学部だけ大量の留年生を発生させるのは余りに大学の場当たり主義だと(筆者は)感じざるを得ません。 

おわりに
医薬分業の中で
筆者は、定期的に医者に通い薬を処方箋を出してもらい調剤薬局で薬をもらっています。チェーン店の大規模調剤薬局ということもあり、毎回同じ薬剤師さんが対応してくれるわけではありません。それでも毎回丁寧にお薬の説明をしてくれますが(例えば)最近胃の調子が悪くて主治医と相談して新しく胃の薬を出してもらったとして、そのことを改めて初対面の薬剤師に話さないといけないのは結構『うざい』、この『うざい』と感じる理由は、多分初対面の薬剤師にいちいち病状を改めて説明をしないといけないこと、また、長々説明したところで『それは大変ですね、お大事に』とはいってくれても、医者以上にやってくれることもない、という二重負担があるからだと感じています。さらに『実はアタマも痛くて』と薬剤師に言ったところで、独自判断で頭痛薬を出してもらうことは出来ないシステムですから、もう一度医者のところへ行って処方し直しなおしてもらわないといけません。また、薬剤師には、医師の処方を薬剤師法にもとづく疑義照会により確認、変更することが可能ですが、これも『パワーバランス』で十分に機能しているとも言えません。
良くも悪くも日本の医療は医者で回っているので、薬剤師の仕事は、(薬剤師の組織は否定しますが、患者の立場からすると)医者の指示待ち対応が中心。薬剤師の街の薬局でのアドバンテージは、厚労省が指定した医薬品を売る資格があることくらい、それ以外は新設された『登録販売者』の資格で事足ります。このような昔から変わらない状況を見ていると、薬剤師養成の改革だけでなく、実際の日本の医療の中での薬剤師のあり方についても十分な議論が必要と感じます。

自分の目で確かめる オープンキャンパスはとても大切
私大薬学部の入学してからの実態は、大学HPを見ても知ることはできません。どこの薬学部紹介を見ても、だいたい同じようなことしか載せていません。最短でも6年という時間、1500万円にもなるコストを投資して得られるものは何なのかを知るには余りに情報が限られています。また、受験産業(予備校とか)も、それぞれの大学を受験したときの合格可能性については詳しく分析してくれても、入学後どうなるかのケアまでしてくれません。
現在の日本では、受験・入学前に直接大学施設に入ることができるオープンキャンパスはそこそこ充実しています。また、様々な場所で多くの進学説明会の実施、そしてe-mail・SNSでの質問も受けつけている大学もあります。
特に薬学部に関しては、訪問したオープンキャンパスにおいて、自分が入学しようと考えている大学が、自分に対して客観的に何ができ何を提供してくれるか、について、どのような言葉で説明してくれるのか、という情報を知ることができる、非常に重要な機会です。(大学)自らの(客観的な)状況を説明せず、学生に対してのみ学びの困難さや頑張る努力、ガッツとかの精神論を全面に押しつけてくる大学があるとすれば、少し立ち止まって深呼吸をして、この大学を選ぶべきかどうか、また、そもそも薬学部を選ぶべきかどうかを見つめる機会となると思います。

この項 了

 

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