FOU’s blog

日本の大学 今 未来

【短編】とある外国人のCVを眺めて今の日本の大学を考えてみる

関係する大学で、秋ごろから外国人がやってくることになり準備中。その人のCV(Curriculum Vitae(履歴書・経歴書))を見る機会がありその書きぶりでいろいろ感じることがありました。もちろん、学生個人の情報は抜いてぼやかしています。大学で働く大学職員(の一部)の方なら共感してくれることを期待しています。このケース、頭の体操になります。

CVの復習

外国から学生や研究者がくる際に提出してくる自己紹介書がCV。筆者が本格的にみるようになったのはカナダにいた頃から、東京にいた時は日常的に眺めていました。

今回の来訪者は、EU域内の大学から大学間協定(と授業料不徴収覚書)により来日予定。期間は三か月超、そのため何らかのVISAが必要。なお、この『学生※』は、EU域外の国籍者で、学部以降の主要な学位は自分の国の大学(院)で取得。この『学生※』とした理由はおいおい説明していきます。以下は、学生個人のことではなく昨今の海外の大学事情のお話を中心とし、CVの書きぶりに沿って考えていきたいと思います。

①PERSONAL INFORMATION(個人情報)

まずは冒頭、日本の履歴書の見出し部分。書かれているのは、氏名、住所、連絡先(住所・電話・e-mail)だけ。日本にあってこの人のにない部分は、敬称(Miss, Mr., Mrs., Ms.)、性別、生年月日、配偶者関連のあたり。20年くらい前、筆者が東京にいたころ、アメリカから送られてくるCV眺めて、課のみんなで『アメリカからくるCVって性別書いてないんだようなぁ…』的なお話をしていた時のことを思いだしました。ですので、特に欧米諸国から送られてくるCVでは標準的な書きぶり。未だにwebでみつかる日本の履歴書のテンプレをみると見事に、ちゃんと性別、生年月日は、必須項目として記載欄があります。筆者としてはどっちが良いか悪いかジャッジはしませんが、他のG7諸国、EU圏の国では書かないのがすでに常識。このあたり、就活している学生も求人やっている日本の企業側もそして学生送り出す大学側も、もう少し国際情勢をアプデUpdateした方が良いかもしれません。

関連して、この来日する人物は、写真上筆者の目には女性に見えますが、その外見のみで性を決めるわけにいきません。それがLGBTqの考え方。

②EDUCATION (学歴)

次が学歴部分。ここは普通に、B.A. in EconomicsM.A. in Economics、博士号は取ってますが取得研究科の名前はない感じ。イメージ的には経済というより経営に近い内容に映ります。

③PRIZES AND SCHOLARSHIPS (受賞・奨学金歴)

日本的に言えば、JASSOの奨学金というより、審査の厳しい奨学・助成金団体やJSPSのようなところでの採択があったかを書くべきところ。この人の場合、大学院レベルの時、マリキュリプログラム(学内用途)とエラスムスプラスプログラムでEU域内の他の大学への留学経験がありました。改めて今さらの印象ですが、Erasmus Programme も欧州で定着してきて、学生の流動化(他の国の大学へ行きやすい)が進んでいるんだなあと実感。日本の首都圏の大学で(例えば)MARCH、関西なら関関同立のどこへ行くかで悩むレベルと海外の大学の状況は次元がかけ離れていることを、特に受験する学生、家族の人たちは考えてほしいと思います。

で、この人の来日経費自体は、所属大学と当該国教育省からでる助成プログラム(予算)で来るようです。日本的なイメージでみると、東南アジアから日本の大学にやってきた留学生が大学で公募したアメリカ研修プログラムが採択されお金をもらってアメリカへいく感じ。日本では考えにくいですが、欧米ではそんな感じが普通です。

③TEACHING EXPERIENCES (教育歴)

Ph.Dレベルの人ですので、多分日本の院生以上にTAや場合によってはRAのような教育機会がたくさんあったようです。たくさん書いておけば、教育関係の職に就くにしても会社で働くにしてもその経験は肥やしになり評価の対象になるということです。

④SCIENTIFIC PUBLICATIONS(学術誌)ー研究活動ー

こちらもPh.Dレベルの人ですので、研究成果の記載は大切。まず⑤MONOGRAPH(単著1本のみ)と⑥SCIENTIFIC JOURNAL PAPERS(学術論文)で共著的な記載がありました。他には、所属学会とその活動 ⑦& INTERNATIONAL CONFERENCES/SYMPOSIA, ⑧SCIENTIFIC VISITS/INTERNATIONAL MOBILITY の記載がたくさん。

これらを眺めていて、筆者感じたのは、大学院学生時代の研究活動の比重のかけ方。日本の大学院の場合は、あけても暮れても論文のお話、学会誌で査読付き論文を何本出せれるか等々多くの時間を費やすばかり。そんなだから日本の人社系大学院が衰退するんだなあと感じます。論文だけでなく教育活動や研究活動の評価を組み込んで学位審査をする仕組み作りが大切だと思います。
⑨COMPUTER SOFTWARE

普通にOffice365 etc やzoom, Moodle のような記載。ここは日本と同じ。

LANGUAGES

この人は ArabicがNative、ほかに英語、フランス語、イタリア語、スペイン語がお話できるよう。なお、日本語は未体験のようです。

筆者の気になったところ

最初のところで『学生?』とした理由。他の書類を眺めていても、どうもこの人、すでに博士まで取得していて、(日本にはないタイプの)ポスドク的な立場で在学しているように筆者には見えます。仮にポスドク相当として考えないといけないことは、来日に伴うVISAはStudent ではなくて、文化活動、Researcher あたりが適切。また、来日中の成績を付与するなら、授業科目よる単位ではなく、プログラム修了書的なものを渡すしかなさそうです。※筆者は直接受け入れの担当ではありませんが結構横目で心配げに眺めているところ。

まとめ

筆者のような、大学で海外とのつながりのあるお仕事を長くしてきたタイプの人はごくわずか。どこの大学も国際だのグローバルだの言ってますが、THEとかでみてのとおり国際競争力のある大学はありません。十八歳人口が極端に減少するなか、マーケテイング上、海外から留学生を取り込むのは良いことだと思いますが、それができるレベルの大学自体がわずか。最近筆者が思うのは、大学受験をする人は、その選択肢を国内だけでなく海外の大学も選択肢に拡げる方が良いように思います。がんばる気があれば高1から計画的に準備すればなんとか間に合うかもしれません。

 

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