FOU’s blog

日本の大学 今 未来

神戸市さんが王子公園駅界隈に大学誘致を始めたことを考えてみる3 がんばれ関学さん

関学さんが正式に優先交渉権者になりました。神戸市民でもある筆者が今後のことを考えてみたいと思います。業界ネタが増えますが普通の方にも(できるだけ)わかりやすく説明してみます。なんでも書きたがる筆者の特性で冗長ぎみとなりすいません。

学校法人関西学院さんが優先交渉権者に決定(6/19付け)

神戸市さんは、6月29日、王子公園(灘区)に誘致する大学について、正式に関学さんが優先交渉権者だと発表がありました。

まず選考委員会を考えてみる

この誘致を決めた委員会は、委員長を含めて7人で構成されています。基本的には、委員構成は(大阪公大と違って※)非常に妥当で多方面に学識ある人たちといえます。またジェンダーバランスへの配慮もしっかり。ケチのつけようがありません。このあたり神戸市さんは卒なくされていますが、その中で、筆者目線で興味深かったことをいくつか。※昨今の大学英語名称『University of Osaka』 の決定過程、新病院長選考の決定過程etc

①なんで公立大の先生が多い?

学識経験者枠6人中4人が公立大学の先生(内訳:大阪公立大学福知山公立大学京都市立芸術大学兵庫県立大学)。ここまでいくと偶然じゃ済まされません。意図的です。ご近所の大学(神戸大etc)は利害関係者になりうるので外したんだと思いますが、その割に兵庫県立大学の先生はお一人いらっしゃいます。まあ、それが何かに悪影響をを及ぼす話でもありませんので気にしなくて良いのだと思います。テレビ的に言えば『コンプライアンス上もんだいありません』。なお、委員長になった先生も著名な工学系の都市計画分野の方のようですのでこのような会議の取りまとめ者として適任だと思います。このあたりの神戸市さんの人選はご立派。

桜美林大の謎

ただ、そんな中で気になる方がお一人。それが 桜美林大の大槻達也さん。桜美林大の研究者情報をみてすぐにわかりますが、この人は元文科省キャリアの方。文科省在籍時はトップ5くらいのポジションにいた方が、キャリアを活かして(天下って)教授になっていらっしゃいます。なお、桜美林大さんは、ちょっと調べるだけで、同キャリアの小松親次郎さんようなお名前も見えますので、文科省出身者の受け入れには積極的なようです。普通?に考えて、委員の中にそんなお名前の人がいるということは、文科省にもオーソライズしているんですよ的なイメージを与えてくれることを期待しての人選だと考えれば良いのだと(多分)思います。

こんなメンバーにより、関学さんにプレゼン+質疑応答を行ってもらい、その審査の結果、優先交渉権者としてきまりました。

以上のことは、詳しく神戸市さんのHP内にもっと丁寧に書かれていますので、関心のある方は是非お読みください。

審査結果で決まったこと

関学さんのプレゼンは『関西学院大学王子キャンパス 事業実施計画提案概要』により行われたものと思われます。審査の結果は、以下のような項目建てで講評されています。

総評のポイント:

『王子公園周辺エリアの「新たな価値」を創出するため、「教育」「研究」「社会貢献」という3つの使命を果たすことを主眼とし、国際性や多様性を高める大学を作る。』

各項目建の中でのポイント:

『国際性や多様性を重視し、アントレプレナーシップの養成を通じたイノベーション人材の輩出を行う』

このあと、地域経済、地域貢献、都市計画・景観等、安定性・継続性(財務・会計)で評価コメントが入りますが記載は良くも悪くも(筆者にとっては)月並みで普通。その他、興味深い部分として『借入金の返済に約30年間を要する』と書かれていましたので、関学さんは、この土地を買うため現有資産を手放すのではなく、資金借入れをしたことが確認できました。

(委員の)附帯意見: ⇒ココ重要

アントレプレナーシップの養成を通じたイノベーション人材の輩出等の実現に向けた 努力は期待できる。

・応募者の開学の地(原田の森)であるという強みを活かすのは良いこと。

・リカレント・リスキリングプログラムの検討・具体化をすすめてほしい。 

・建物の色彩や建物への緑の配置の検討をして、六甲山の山並みや周辺環境に配慮した施設計画、景観や眺望にも配慮することは大切。

そして出来上がる王子キャンパスのイメージ

その1 国際性のある文理融合型学部を作る ー国内外から学生4000人の謎ー

関学さんの提案の中で、一番の目玉が文理融合型学部の設置。この学部は、神戸市さんへの約束で4000人規模の学生が学び200人規模の教職員が支える新キャンパスの中心となることを目標にしています。同時に神戸市さんにとっても学生等による滞留人口を含めた大学の建設による地域経済への波及効果に期待を持たせる仕組みができたということ。

文理融合型の教育の推進は、近年文科省中教審でも言われ続けていますが、(筆者のアタマが悪いこともあり)もう一つ見えてきません。今現在、日本で文理融合を提唱して開かれた学部はすでにありますが、やり方いろいろで暗中模索的な印象。また、筆者の個人的なイメージでは、その模範となりそうなのは、いわゆるアメリカのリベラルアーツ型カレッジ(大学)、ですので、収容定員の大きそうな学部(1学年1000人?)の中でやるのは大変な気もします。そのため、筆者の見立てでは、関学さんが作る学部は、なんとなく日本流?の、カリキュラムの中に人文社会学系と自然科学、工学・情報系のような分野を両立・混在して学べるような仕組みの学部になるのではと思います。ただ、関学さんとしても、今回のプレゼン段階ではまだ具体な検討段階に至っていないので、ぼんやりとした説明にとどめたのではないかとも思えます。また、学部と外国人留学生?による国際化のお話も見えてきません。そのあたりは関学さんの良いものを作る今後のがんばりに期待したいところです。

また、普通、このような新設学部を作る際は、大学内全体としての組織改編も合わせて行っていくものですが、この文書を読むかぎり王子新キャンパスのため、全く新しく学部を作るつもりのよう。今後さらに少子化が進む中、完成年度には収容学生定員が4000人規模にもなる新設学部の設置認可申請を普通に文科省に提出して、関学さんの意図した形での承認・認可がおりるのか謎。(今の関学さんはフルタイムの学生数(学部+大学院)が約25000人、これがあっさり定員管理上30000人近くに増えるなんてあり得ません。何かしら他学部も巻き込んだ人数上の調整が必要となるはずです)

また、同様に今の段階では考えがおよんでいないのかもしれませんが、この新設学部を作ったとして、その受け皿となる大学院をどうするのかについても課題が残ります。

※このあたりのお話、参考になるかもしれないのが甲南大さん。甲南大さんは、学部毎の学生数が1学年400人程度のコンパクト設計なので、(仮に)2学部を王子公園に作るか持ってくるかしてもサイズ的に丁度よく収まります。関学さんも王子キャンパス用に小さめの学部を2つ作ってしまうのもありかもしれません。

他のキャンパスとの関わり合い ー1年次共通教育系科目はどうするの?ー

こちらは筆者個人的な心配。王子新キャンパスは講義・研究を行う建物(と芝生)中心で、それ以外にレクリエーションや運動ができるエリアまではなさげに見えます。そのため、特に学部1年次の共通教育系科目の履修の際には、どう見ても他のキャンパスへ行く必要があります。ググってみましたが阪急電車王子公園駅~甲東園・仁川駅間の所要時間は約30分、さらに両駅から西宮上ヶ原キャンパスまで徒歩12分(約1キロ)を要します(三田キャンパスは遠すぎて日常的な往来は現実的ではありません。)。ですので、学生さんがキャンパス間を行ったり来たりするのは大変なので極力避ける方が良さげです。多分、1年次生の間は、上ヶ原キャンパスを中心とした場所で共通教育系科目を中心に学び、2年次以降、専門科目を学ぶ段階で王子キャンパスを中心として学ぶことになるのだと思います。また、細かい話をすれば、学生さんが阪急電車さんの通学定期の購入する方法も複雑化します。どちらにしても、関学さんの場合、2キャンパスの距離が中途半端に離れているので、他の学部の学生を含めてキャンパス間移動は大変。このあたりは将来的にはいろいろ検討する必要が生じるかもしれません。細々な話ですが筆者個人的には気になる部分。

社会人向け大学院も多難

もう一つ、関学さんが行わなければならない取り組み、それが神戸を舞台にした産官学民連携とアントレプレナー(シップ)やデータマイニング(Data Mining)的手法がキーワードとなるような起業支援をテーマとする学びの提供。内容的には大学院レベルでの教育で行う方が適しているように感じます。筆者の心配事は、このようなフィールドの学びは、大学のことをあまりご存じない方には希少性があるように感じるかもしれませんが、既に他の大学(院)でも結構やってます。特にご近所の神戸大学さんは、旧三商大の流れをくむ名門で、経済・経営分野には強みをもっています。また、兵庫県立大学さんも経済・経営系の分野は、旧神戸商科大学の流れをくんだ名門。そしてどちらも同じフィールドでの大学院教育を実施中。また、両大学とも『国公立大』なので、(多分)関学さんの提示する授業料の半分以下で学べそう。特に兵庫県立大さんなら兵庫県出身者への入学料の減免もあります。さらに、ライバルとなりうる大学院はJR大阪駅周辺にもたくさん。JR神戸線の新快速を使えば三ノ宮駅大阪駅間は20分ほどですから神戸に住んでいる人でも選択肢の一つにすることができます。

ネガティブなお話ばかりなので、筆者個人的な提案をするならば、例えば、まだ他の大学で多くは手掛けていない都市と文化や芸術を掘り下げるような大学院(名称的には Graduate School of Arban Arts and Culture とか)を作るのは面白いのでは。

そんな状況の中でも、がんばって都市型社会人向け大学院(独立研究科?)を作るとすれば、多分、規模的には博士前期課程1学年50人規模、博士後期課程で(多くて)10名程度ぐらいが限界(筆者のみたて)。質の高い入学者を受け入れるためには、少なくともその倍の出願希望者が必要となります。今、多くの人文・社会科学系大学院は定員割れが生じている中、関学ブランドでどのくらいの集客を見込めるかはやってみないことにはわかりません。また、自然科学系に重点を置く大学院を作るのなら、大学単独で行うのではなく理研さんや産総研さんとのつながりがあっても良いと思います。

地域貢献も大変

地域貢献については、関学さんはプレゼンの必要性があったためか、コメントの気前が良すぎ。筆者にはあまりにも『総花的で耳ざわりが良くて風呂敷拡げすぎ』に感じる内容。記録に残るお話なのでここまで具体に書かなくても良かったのかもしれません。

大学図書館の市民への開放

キャンパスに作る図書館を市民に開放し、『まちライブラリー(図書館)』 として地域に貢献します的なコメント。とても耳ざわりが良いのですが実際は大変。場所柄、他の大学以上に誰でも訪れやすい場所に図書館ができるので、学生以外の不特定な人物にも図書の貸し出しを可能にしたら手間暇がかかります。また、運用上、特定の人たちによる図書館内の居座りや過剰利用なんかも現実的にはあります。もちろん部分開放だとは思いますが、管理する側としては大変そうに感じてしまいます。どちらかというと筆者個人的には、学生の利便性が高い24時間(に近い)利用が可能な図書館作りを目指す方が評価が上がるような気がしました。

②景観に配慮したキャンパス作り

キャンパスの建物は六甲の山並みに配慮してアースカラーに。芝生多用で市民の憩いの場にもでき、防災拠点にもなるキャンパス作りを目指していくようです。なんで大学誘致のプレゼンをする際、校舎をアースカラーにするとかまで説明する必要があるのか(筆者は)少し疑問に感じます…。イメージ的には三宮駅前にあるミント神戸さん(ミント色の複合ビル)が並ぶイメージをしたらいいんだなと勝手に思っていますが、安藤忠雄さん的なコンクリートの打ちっぱなしの校舎も素敵に感じます。また、関学さんはキリスト教精神による教育観に基づいて作られた私立大学でもありますので、王子の地のシンボルになりうる素敵な教会も忘れず建ててもらいたいところです。

【写真1】8/15写真追加 ご参考でミント神戸さんのご案内 写真の左のミント色の建物がミント神戸さん(右側は神戸阪急百貨店さん)。中にはOSシネマズさん、ショッピングエリア、飲食店等々が入っています。王子公園にこんな色の建物が立ち並ぶのでしょうか…

【写真2】築地 孫右衛門さん ミント神戸店さんのお店でランチ

ke7j700.gorp.jp

もう一つの課題が Campus Security。自由に誰でも入れるキャンパス作りは、Sounds Good なのですが、反対に安心安全なキャンパス作りも求められます。別に壁や柵をという訳ではありませんが、一定の区切りは必要だと思います。このことについては事件・事故が起こる前に交通整理を行う必要があると感じます。

③レストラン等の市民開放

一般の方が勘違いするのがレストランの贅沢さ。テレビとかで紹介している一部の大学のレストランってフレンチのコースっぽいものや、ステーキやお寿司をいただけるようなお店の紹介ばかり。確かにいくつかそんなお店もありますが、全体的には、今でも学生に食中毒が絶対おこらないようナマモノはキャベツのみでそれ以外は煮るか焼くか揚げるかしたお手頃価格なお食事が主流(いわゆるカレー類、うどん・ラーメン類、トンカツ系、どんぶり系etc)。そんな内容なので、学外からおこしなる方(特に年齢層お高めのおじいちゃんおばあちゃん)の口には合わないかもしれません。それでも好奇心旺盛な市民が押し寄せてくるとなると大変。混雑と合わせて販売数の予測がつかなくなり売る側も大変になるかもしれません。また、外部利用者の影響で、料金が高くなってしまい主として利用する学生に不利益が生じないようしてもらいたいところです。

また、他の大学でも良くやっているホテルのような外部事業者よる外注も良いかもしれませんが、大学のレストランでは高額な料理を出すわけにもいかずお値段は控えめ設定。さらに、大学で展開するお店は、夏休みとかの大学スケジュールにより仕入れ等々左右されるので経営は大変とよく聞きます。

食べ物関係についてまとめると、筆者個人的には『パスタの中のキャベツは神戸市北区産です』のような地産地消とともに大学がかかわるお店にはハンディキャップを抱えた人が働ける雇用機会を積極的に提供するとかの取り組みを行うことは重要。あとは月並みにコンビニ、マクド、スタバ、やよい軒さん等々とキッチンカーの出店があれば十分事足りると思います。

まとめ

文字に起こし改めて見つめなおしてみると、関学さん、これからが大変。様々な人たちの期待が大きいので、単に文学部とか理学部とか社会学部とかいうありきたりな学部を作るわけにいはいきません。どんな文理融合型の学部とやらを作って何を発信できるかで(100年とは言いませんが)今後50年の関学さんの将来に関わってきます。

いろいろ書きましたが、まだまだ交渉権者確定段階。次のステップとなる正式な覚書締結あたりのタイミングで改めて進捗を検証していきたいと思います。

www.city.kobe.lg.jp

fou.hatenadiary.jp

fou.hatenadiary.jp