FOU’s blog

日本の大学 今 未来

同業種交流会の世間話から2023年の大学を占ってみる3 ー公立大学のありかた編ー

学部学生規模なら神戸大学さんに追いついた大阪公立大学さん。もうすぐ出来て1年になろうとしています。関西圏では、兵庫県立大学が総合大学としてあったりと、首都圏以上に公立大学の存在が目立ちます。受験する側としては、授業料は安いし魅力を感じている人たちも多いと感じますが、その現実についてもよく話題になります。

秋田の国際教養大学は謎

なんで謎かというとその存在。筆者やその周辺の(多分普通な)大学関係者の考え方として公立大学の立ち位置とは、それぞれの地域での高等教育が十分に提供が行われない際、補完的な役割を行うことが基本だと考えます。例えば、それぞれの地方で、看護師不足があるのなら地方の官の力により看護学部をつくるとか、先に取り上げたように薬学部の設置のない県に薬学部を設置する(和歌山県立医科大学薬学部)ような取り組みとかがわかりやすい事例。最近では、地方において存続が厳しい私立大学(定員が充足できないetc)について、若年者の地方からの流出防止を理由に加えて公立大学化するケースも増えてきています。

ですので、公立大学のレゾンデートルとは、多くの場合、過疎傾向の地域において、人口減少や少子高齢化が進む中、大学(高等教育)による学びの場を提供することにより、若者の定着・増加を目指したり地域活性化や経済効果を期待するものだと考えます。そのため、独自性や専門性の高いとんがったモノを作るより地道にその地域に貢献ができれば十分。

謎に感じている理由というのは、私のような戯作者だけかもしれませんし、全てがうまく回っていて(日本国内では)評価の高い大学にケチをつけるのもアレですが、なんで地方公共団体がこのような公立大学を設置したのか?、今現在の評価はともかく、公費を投じて作る必要があったのか?(民業圧迫?)。できた大学はその地域に貢献できているのか?※例えば、その地方に住む高校生が学べる大学になっているか?。卒業生はその地方(秋田・東北エリア)と関わり合いをもてているか?etc。一例をあげれば、折角開設した和歌山県医大薬学部の卒業生が、一人も和歌山県内で薬剤師として働いてくれないということがあったとしたら…。そんなことがおこると和歌山県の人はがっかりしてしまいます。

巨大化は良くない? ー地方の役人が作る大学は…ー

世間の人たちは、大阪市立大と大阪府立大が統合され大阪公立大について概ね好意的。もうみんな忘れかけていますが、統合の理由は、地方の行政機関の効率化のため。その典型が府市(不幸)合わせといわれる二重行政。よく使われる事例が、府のやっている水道事業と市がやっている水道事業はかぶっていて効率がわるい、というのと同じ視点で、二つの大学を一つにするというやり方。そんなコスト優先の統合ですので、そこで学ぶ人、働く人たちへのケアは二の次となっていると筆者には見えます。

同様に、お隣の県、現在の兵庫県立大も県立商科大、看護大、工業大などを一つにまとめたもの。兵庫県の場合、如何せんそれぞれの大学が離れすぎていて一つにした意味を見出すことができません。学ぶ学生としても、比較的学生の多くいるキャンパスが神戸と姫路にありますが、普通に毎日行ったり来たりできる距離ではありません(JRの神戸~姫路間で片道990円)、さらにもっと離れた相生、但馬や淡路島にまでキャンパスが点在します。つまらぬダジャレ的に言えば明石名物のタコたちもびっくりのタコ足配線状態です。こんな組織で理事長、学長は一人づつでやっています。兵庫県としては地方公立大学化と合理化のお達しがあったのでとりあえず一つにしたんでしょうが…。

筆者は関西に住んでいますので、どうしても関西エリアの大学情報が入りやすいこともあるので関西ネタが中心になりますが、基本的に公立大学の体質はどこでも同じではないかと考えます。公立大学の設置趣旨とは、あくまでその地域における高等教育の不足を補完するというもの。ですので、大学の巨大化や、最先端の教育研究を目指すよりもその地域それぞれで足りないものを補っていくのが本来の姿と考えます。また、最近四国であった(当初より無理筋に感じていた公立看護系大学の設置断念)事例を見ていると地方政治や利権に翻弄されているようにも見えます。今後、公立大学の設置を目指す地方公共団体は、身の丈にあった大学運営を行ってもらいたいところです。

そんな中で筆者が良くやっていると思う公立大学

和歌山県立医科大学薬学部

1990年代以降に新設された薬学部で一番。設置趣旨が明快。地域に確実に貢献ができる学部。筆者としては、近年の公立大学の中で一番評価ができる設置だと思います。他のこれから公立大・学部を新設する際の見本となる大学。あとは和歌山県さんががんばって予算を出してあげることが肝要だと思います。

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神戸市外国語大学神戸市看護大学

この二つは、無意味に役所(神戸市)の事情で他と統合しないところに健全性を感じます。このように目的に応じた設置形態が維持されるところが公立大学としての基本。特に神戸市外大は国際都市を標榜する神戸市で外国語教育に特化しているところが地域性もあって公立大学らしい(個人的にはあと数言語増やしてバラエティのある言語教育をしてほしい)。同様に看護大も市の需要に応じた妥当な設置。確かにこの毛色の異なる二つを一大学にするというのは無理筋だとは感じますが、両者ともこのままでやってもらいたいです。

東京都立大学首都大学東京)<聞いた話>

これは、近くにいる大学関係者から聞いた話。他の公立大の職員が何かの出張で都立大へ行った際、大学予算のことをお話をしたそう。聞くところによると、都立大では予算要求をしたら欲しいものはだいたい全部承認されてしまう(らしい)ことにびっくり。その理由は(なんとなくわかる人もいるかもしれませんが)都知事の裁量。石原都知事の時代、彼の考え方として、教育には将来への投資なんだからケチらず金を出せというトップダウンのお達しがあったそう。筆者もなんとなくあの人ならそうだろうなあと得心できるお話。また、他の地方公共団体と比べて財政力の違いも影響しているのかもしれません。

石原さんは大学にとって良い事例と言えますが、大阪は(多分)真逆、政権にいる者が高等教育に関心を持たずまとめて効率化する方がええやろ的な姿勢が見え隠れしてしまいます。さらに予算がかさみそうな2025大阪万博もあるのでいちいちたくさんのことにかまっていられないのかもしれません。他の公立大にしても、多くの地方公共団体からの目線として、短期的にはお金を生まない不採算部門とみるか、将来への投資とみるのか設置者の気持ち次第。その気持ちによって国際教養大や和歌山医大薬学部のような期待できる大学(学部)も確かに存在しています。

まとめ

今回書いていることは、(多分)大学で働いている人たちにとっては基本常識なのですが、受験する人、その関係者は、意外と区別がついていません。入試メディアもおなじで大阪公立大は統合効果で神戸大に肉薄!とか、筆者からみると、全く基本がわかっていない大学評価もたくさんこの世の中にはあります。特に最近の傾向として、地方公立大学新設の目的が、(破綻期を迎えた)地方私大の救済を目的にしたりと様々な設立事情があるように思えます。大学を選び受験する側の人たちも、授業料が安く一定の質の高等教育を地元で受けることができるのはメリットと言えますが、実際の大学としてのクオリティーはどうかも考える必要があると思います。

※まとめるのに手間取り年末のお話がGWまで伸びてしまいました。すいません。

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