筆者は一法人二大学と予想し、二つの大学名は残すと思っていましたが一法人一大学で今回の新たな命名。予想はことごとく外れていますが、自身の未熟を反省しつつ東京科学大学の名の意味合いを考えてみます。
この名前を考えた立場の人たちの思い ー神聖ニシテ侵スヘカラスー
筆者がちょっとググってみるだけでも、北海道科学大学 Hokkaido University of Science、千葉科学大学 Chiba Institute of Science、帝京科学大学 Teikyo University of Science なんかを発見。個人的には帝京科学大学 Teikyo University of Science がカッコ良く響いて好きですが、それはさておき、地名+科学+大学の命名方法はよくあることなのがわかります。ですが、これまで、東京+科学+大学の名前の大学はなかったので、日本語での命名プロセス自体には誤りはありません。
そもそも大学関係者の皆さんが、多くの普通の人たちが、ちょっと意外に感じるこの名称にしたのは、総合大学の最高峰で唯一無二の東京大学 The University of Tokyoがあるのだから、理系の最高峰大学として唯一無二の東京科学大学 Institute of Science Tokyoとしたい、という思いがあるのではと筆者は感じます。
東京理科大学さんは紛らわしいとクレームを言った方が良いのか少し考えてみる
今回の名称『科学』の部分に目がいきがちですが、英語だともう少し複雑さが増します。ざっくり言えば、科学と理学とも英語による表現では Science を使えそうです。自然科学というフィールドの中での言い回しで考えると 科学≧理学。ですから、新大学の東京科学大学のイメージの中では理学はもちろん医学も工学も包含する自然科学分野の総合大学として表現したかったんだと思います。
で、たぶん新大学の名称を一生懸命考えた人たちは、それでも後発での命名ですので、日本語で類似性のある大学名称を慎重にチェックした結果、絶対大丈夫だと思って東京科学大学としたと推察しますが、筆者は英語での名称 Institute of Science Tokyo も考えてみます。
筆者の読みでは、英語名称を作る際、東京理科大学 Tokyo University of Science さんをかなり意識していると思えます。東京理科大学さんも歴史があって理工系学部の他、薬学部もある老舗私立大学。新大学は、統合して大きくなったので Institute ではなくUniversityを使うのも可と思いますが、そうすると University of Science Tokyo となり、使う単語自体は、東京理科大学 Tokyo University of Science と同じになります。多分、そんなこともあってか Tokyo 部分 を終わりにもってきたのも類似性を避けるためではと感じます。ここまでくると Osaka University と University of Osaka は、違う大学だという論争と結構似てきます。そのためか、大学表記の公式略称について、日本語は『科学大』に決めましたが、英語の略称は調整中で決めきれていない様子(大学HP)なのは、そのような理由もあるのかもしれません。特に東京理科大学さんなら英語による論文投稿など海外との関わり合いも多いでしょうから、同一性に疑義が入るような名称だと感じれば大学同士で調整する方が良いと思います。
名前は最初が肝心 ーのちのち尾を引きますー
事例1 University of Osaka
筆者が感じる最近一番みっともないお話。この名前に決めました!と華々しく公表して、すぐに阪大から理路整然とやめてくれと反対され、結局なんの合理的説明もできないまま撤回してしまいました。筆者は、このような混乱必至の名前を決めてしまう意思決定過程というか、この大学組織のガバナンスが問題の方に興味がいってします。それはともかく、これから東京科学大学という名がどう評価されるかわかりませんが、その動向によっては勇気をもって変更することも必要かもしれません。
事例2 大阪大学基礎工学部は何をやっているの?
こちらは大阪大学のお話。阪大にこの基礎工学部 School of Engineering Science が出来たのは1961年、この名の由来は、初代学部長正田先生の設置趣旨『科学と技術の融合(科学(基礎)+工学)』によるもの。筆者の解釈では、当時の日本は、高度経済成長期に差し掛かり、優れた研究者・技術者の需要が高まった中、急いでの新設。ただ、当時の大阪大学には工学部と理学部があるので、さらに同じフィールドの学部を作るとなるとネーミングが問題に。一つの学部の中に工学系と理学系の分野があって、それを発展的に理工学部とするのはアリだと思いますが、さすがに学内に工学部・理学部がある中で理工学部を作るわけにもいかず(筆者の解釈では)苦肉の策として基礎工学部という表現に落ち着いたんだと思います。ついでに言えば阪大さんにはさらに類似のフィールドに附置研で産業科学研究所なんかもあります。で、もうこの学部、60年からの時が流れ大学業界の中ではこの名前が浸透して筆者なんかは一応納得?はできているのですが、社会の人たちへの浸透はまだまだ。特に基礎という言葉の響きがネックで、高校生あたりの理解では、工学や理学の学びよりの格下感をイメージさせてしまいます。実際の研究では、マツコロイドの石黒先生が在籍していたように先端性が高い教育研究を行っているのですが、その実体をなかなか理解してもらえません。予備校とかがやっている入試偏差値になると、基礎工学部、工学部と理学部との間に(意味不明に)差がついてしまったり、オープンキャンパスの際も他との違いを説明するのが大変となります。それでも何とか両学部が共存できるのは、その二つが吹田と豊中(待兼山)にキャンパスが離れていることも理由だと思います。
まとめ
どうもこの大学名称の評価は芳しくないようです。まだ耳に馴染んでいないのも理由と思いますが、多くのみなさんが期待していたネーミングとはかなり違っていたのかもしれません。特に医科歯科大側は、医学の名前が消えてしまうと、『東京科学大学の中の医学部です』と説明にひと手間増え、一般の病院利用者などにも影響がでるかもしれません。筆者個人的には一法人二大学にして東工大と医科歯科大の名は残し、法人名称部分に東京科学大学機構とかの方が良かったような気がします。まあ、何かが始まるとみんないろいろ言い出すもの、今後どうなるかしばらく見ていきたいと思います。