FOU’s blog

日本の大学 今 未来

大阪市立大学 超新星の行方

最近の国内大学事情でもう一つ気になっていること。それはこの人物の将来。どう考えても彼と今の大学はミスマッチに思えてしまいます。また、彼のような人物の登場は(年をとった者からすると)歴史の繰り返しを感じます。

彼は大阪公立大学へのリトマス試験紙

まず筆者の言い訳から。結構長く大学などの高等教育と研究に関係してきました。その多くは自然科学系の機関・研究者の人たちが大半。筆者自身は法学部卒ですが、社会科学系のフィールドのトレンディーな流れは正直よく分かっていません。その中でも日本の大学でやっている経済学のイメージは、ノーベル賞受賞の中で一番遠い分野、今でも日本では古風なマル経をやっている人が結構いる、など。そして関西圏の者からすると大阪市大経済学部・研究科も昔の三商の頃の輝きは何処へ、という感じ。そこに彼の登場。

斎藤幸平さん。現在、大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。彼の人新世の「資本論 は異例のベストセラーとなっています。筆者個人的には社会科学系の分野で学振賞に選ばれたことに注目。学振の選考ですから、日本の有力研究者たちのピアレヴューを受け、その評価を得ていることは大きいと思います。で、筆者の謎は、なんでこの人物が大阪市立大学にいるの?に尽きます。斎藤さんは、高校(東京の東京タワーのご近所にある名門校のようです)卒業後、東京大学理科二類に半年だけ在学し、その後アメリリベラルアーツ系私立大の最高峰ウェズリアン大学に入学・卒業、さらにその後は、ベルリン自由大学で修士フンボルト大学で博士、そのあとはアメリカに戻りUCサンタバーバラで博士研究員(JSPS海特事業)、そして日本に帰国して現職となっています。

彼のこれまでの経歴・業績について、一番分かりやすく、公平に説明しているものは、日本学術振興会の行なっている第17回(令和2(2020)年度)日本学術振興会賞 受賞者一覧(JSPS・HP)から入ってもらうと良いと思います。また、国際的な評価として日本人として、初めてドイッチャー記念賞(Isaac and Tamara Deutscher Memorial Prize) しています。ここでは彼の研究の深い部分まで踏み込みませんが、旧態依然としたマルクス研究ではなく、近未来に直面する環境問題、ポストコロナの新時代を読み解くため、マルクス晩年の彼の思考を掘り下げてアプローチしているところに(筆者個人的には)意義があり、若い人たちを含めた多くの人たちが感心を寄せているのだと思います。

1980年代の思い出と今

1980年代初頭、日本はどんどん景気が良くなってバブル期前夜。そんな時、大学教育・研究の閉塞感(を感じる人たち)からニューアカデミズムというフィールドの考え方を求める人たちが現れます。その中に浅田彰さんという人物がいました。当時京大をM修了したばかりでそのまま助手に。彼の場合は、(筆者はよくわかりませんが)フランス哲学からのアプローチから構造と力逃走論のような論文ではなくエッセーに近い(読む人が読めば平易な)出版物が評判となりました。筆者が記憶しているのは、当時、朝日新聞から出ていた朝日ジャーナルという週刊誌上で(ポスト)構造主義だのスキゾキッズだのの言葉をキーワードとともに誌面を賑わせていたこと。朝日ジャーナル朝日新聞社系の出版物の中でももっともリベラル色が強く、関連してくる登場人物も筑紫哲也(編集長)さん、本多勝一さん、上野千鶴子さんのような感じの人たちで、そんな人たちの考え方が好きな人が購読する雑誌。既に大昔に廃刊されていますが、今風に言うとAERAをもっと濃くしたイメージだと思っていただければよいと思います。そこでもてはやされていたのが浅田さん。当時の世相として次にやってくる知のリーダーの一人として評価され同様の雑誌やNHK的な番組にもひっぱりだことなりました。それからの浅田さん、最終的に、学術・研究者の道ではなく評論家としての立場を選び、博士学位を取らず准教授のまま京大を去ります。

 そんな時代から40年、斎藤さんの登場。浅田さんとの違いは、既に斎藤さんは30歳半ばで、博士学位は取得済、海外での研究者としての評価も高いものがありますが、日本国内のメディアのもてはやし方とその空気は(筆者には)浅田さんの時と類似性を感じます。筆者くらいの年になると、そんなみんなが忘れかけた過去を思い出しながら彼のこれからが気になるところ。(あとはご自身の問題ですので)どのような道を選ぶにしても日本の知のレベルを引き上げてくれることに期待したいところです。

www.deutscherprize.org.uk

ここで筆者の素朴な疑問。なんで彼は大阪市立大学というかなりローカルでぱっとしない大学(と筆者は思う)を選んだのか?。まず、アメリカの大学に入学しているので日本の大学とは直接的な縁故はありません。華々しい彼のこれまでのキャリアを見ると、また、今後のことを考えるともっと(大阪市大という地味大学より)彼にふさわしい大学はあるような気がしてなりません。また、受入れる側の大学としても、今の彼ならもっと良い待遇で受入れてくれるところが数多(あまた)ありそうです。

と、最初はそう思って文章を書き出したのですが、途中で書く手が止まってしまいました。思ったほど彼にふさわしそうな大学が思い浮かびません。早慶っていう感じでもないし、いろいろ消去法で残ったいくつかの中で、それでもふさわしいそうな(と筆者が思う)大学を予想してみると、東なら○東工大(社会科学系)、西なら◎京大、大穴で▲阪大あたり。東大は一度退学しているので外しました。東工大は意外に人社系は個性的な教員がそろっています。京大は彼の研究の発展に一番あってあっていそう。阪大は近代経済学のメッカ、真逆にも映りますが彼の研究は古いマル経ではありませんので彼の居場所が(筆者個人的には)あるように感じます。特に異なる知見で今後の資本主義の有り様を論じている安田洋祐さんがいますので彼にとっても良い刺激になると思います。それ以外なら今のままで良いのではというのが結論。

そもそも筆者が大阪市大を彼に勧めない最大の理由は、この大学の研究基盤の脆弱さとミスマッチ。研究力の強さを示す科研費の受託状況は(彼を除けば)高いとは言えず、大学院も全く充実していません。また、研究内容も所謂トラディショナルな方のマル経的視線の研究者が主体。今の彼はマルクス研究を中心としていますがそのアプローチはアメリカからであったりドイツからのもので、日本古来のマルクス(主義)研究からは一線を画してします。

そうは言いつつ、彼がこのまま大阪市立大学に留まることのメリットも考えみました。その(筆者個人的に)参考となる人物が、同じ研究科の朴一(ぱくいる)教授。関西エリアにお住まいの方ならご存じの方も多いはず。平日の夕方や週末の情報・バラエティ系番組の(お笑い系)ご意見番として活躍しています。例えば、コロナ関連のテレビ番組で、どこかの私立大学のよく分からない役職のついた研究者に評論家としてのコメンテーターを依存してTV番組を組み立てる民放の姿勢はどうかとして、自己実現・自身の意見の表明のため、メディアに登場する大学教授は結構います。特に私立大学のように広告塔としての役割を託されて大学本体から是認もしくは要請されてテレビに出るというのは分かりやすいのですが、朴さんの場合は(多分)そうではなく、ご自身の意志で、そしてご自身のペースでテレビに出ていらっしゃるご様子。また、大学と所属する研究科も特に職務専念義務など公的所属機関の割に自由というか、他の先生たちが(他人には)無関心という『社風』は、メディアへの露出度が高い彼にとってはすごしやすい大学かもしれません。 

www.wesleyan.edu

www.fu-berlin.de

www.ucsb.edu

 こちらは朴一先生の本

 

fou.hatenadiary.jp