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中島敦さんは哲学者ではありませんが…

お題「好きな哲学者とその理由を教えて下さい」

よくあるパターンかもしれませんが、中島敦の小説を知ったのは中学か高校の国語教科書で読んだ山月記だったと記憶しています。

ご承知の方も多いと思いますが、中島敦は戦前~戦中期の小説家。漢学者がたくさんいる家系で生まれ育った知識を基盤とした漢文調のリズミカルなタッチで進む短編小説は魅力的。

そのような背景を持った人物なので、彼の作品・作風は、中国の故事・思想に基づくものなのが主体、その中での単純な現代和訳が加えられたものが多いと考えてしまいがち。でも、その文章の中には彼自身の脚色が必ず加えられていて『李陵』では、李陵本人の話だけでなく宮刑になった司馬遷のことや山月記の場合、トラになりつつある何かが足りない科挙合格者のお話に仕立てたりと、単なるオリジナルの書き写しではない作者の創作性が随所に感じられます。そんな彼が33歳で亡くなってしまったのは非常に残念。喘息という同じ病を持つ私からすると今現在の治療法が当時あれば彼の天寿をもっと延ばせたろうにと残念な気持ちに。

彼の良さは、普通なら難解な哲学的思考を短編の小説の中に埋め込むことができるところ。私のようなレベルの人物では、難解な哲学書を読むこと自体億劫というか最初からそんなモチベーションを持っていない中、中島敦さんの小説から様々な哲学的思考をつまみ食いできたのは、生きる上でも役にたったと感じています。そんな彼の短編小説、『李陵』『弟子』『幸福』、『山月記名人伝あたりの雰囲気からは、儒教老荘に基づく中国古典を由来した漢文体をイメージする方も多いと思いますが、悟浄出世のような西洋哲学的思考のものもあり、様々な哲学的アプローチにより自己や究極の世界とは何ぞやを考えてみるのも楽しいと思います。ただ、この年になってて読みかえすと(多少)哲学的思考をてんこ盛りに詰め込みすぎている感も…。そういう面では、バケモノの子(映画)のようにおいしいところだけ pick up するのが賢明な手法と感じます。なお、筆者は、この妖怪たちの中だったら、班衣(魚厥)婆(はんいけつば)さんのもとで天寿を全うしたいと考えるタイプ。なお、小説の舞台が中東になる木乃伊』、『文字禍』2題もマイナーですがおススメ、あっという間に読めます。