FOU’s blog

日本の大学 今 未来

東京都立大学の事件を多方面に考えてみる

都立大南大沢キャンパス内の傷害事件について

11月29日(火)夕刻、都立大南大沢キャンパス構内で、人文社会学宮台真司先生が授業の合間の移動中、何者か襲われケガを負う事件がありました。近年、日本のキャンパス内でこのような傷害事件はおこっていなかったこと、また、被害に遭った宮台先生の研究内容が社会に問題提起を投げかけるオピニオンリーダー的な方でもあったためメディアでも大きく取り上げられています。なお、後日宮台先生ご自身でビデオメッセージを出され(とりあえず)無事のお言葉が聞けたことは何よりです。

で、そもそもですが、特に人文社会科学系の研究では、人種、宗教、世界、社会の諸問題について研究している先生もいて、その発言・社会的影響を快く思わない人たちも一定数いて、さらにその中の一定数の人はその存在を認めない行動(合法・非合法)をとる・とりたいと考えることも想像できます。実際、悪意をもった人物が行う行動を防ぐ手立ては難しいですが、キャンパスセキュリティについては、もっと知恵をだして考えるべきものだと感じます。

なお、筆者の考える大学での教育研究の在り方は、(筆者本人の思想信条とは別とし)多くの考え方の人たちがわいわいがやがやすべきものと思います。日本は民主主義を標榜している国で、その長所として(わかりやすい事例として)中国の大学とは異なり、今行われている政治や社会の問題、気になる事柄を多様な方向性から自由な発想で研究して発表することができることが、アカデミックの分野での健全性・優位性と感じます。

関連して

過去には、大学キャンパス内に緊急性を有する事件・事故以外のことで公安系の警察官や組織が入ることはありましたが、日本は平和な世の中になりましたので(多分)一部めぼしをつけた人物以外には対応はしないようです。

①ポポロ劇団事件

キャンパス内にいるおまわりさんを学生がみつけたらひっ捕まえて警察手帳を奪って多少暴力ふるっても(日本国憲法上、大学の自治や学問の自由があるんだから)OK というもの(地裁・高裁レベル)。今現在は知りませんが、筆者の年齢で法学部で憲法の授業を受けると必ず出てくる判例。筆者個人的には(もちろん時々の社会的情勢によって判例解釈の変遷はあるのですが、条文100ほどで80年近く何も変わっていない憲法の研究価値ってどこにあるの?と考えてしまうタイプですが)通常の警察の人たちでも、大学側からの要請がないと積極的に大学構内へは入りません。

そんなで、悪いことをしておまわりさんに追いかけられたkidsが大学の中に逃げ込んできたり、(警備が甘いので)大学専門の窃盗団がいて、休み明けの月曜日に大学へ行くと、どこかの研究室の部屋が荒らされていて引き出しの小銭がなくなっていたりします。ですので、ドアの外は共用部でどんな人がいるかはわからないと考える必要があります。北米の大学ではキャンパスセーフティーの観点から自前のパトカーで巡回しているのはよくある話。日本の大学で働いているいわゆる守衛さん的な人は、雇用条件や業務の内容から犯罪を試みる人と相対するタイプではないので今後は何らかの工夫が必要かもしれません。※あとにある写真もご覧ください。

公安調査庁さんの気にするところ

(退職後も守秘義務がありますので個別具体的なことは言えませんが)あるところで働いていた時、急に総務部長と総務課長に呼び出されて「よろしく!」と対応依頼(多分関わり合いたくないので現場に丸投げ?)をされたことがあり、いろいろお話することがありました。その時の公安調査庁さんの関心事項は、いわゆる『国産のゲバ学生』ではなく、日本にくる外国人の留学生・研究者の動向。特に911以降、国際的なテロ事件というものが身近に感じられるようになってきました。アメリカのテロ事件の際、多くのテロリストたちは合法的にアメリカに入国したうえでその日をむかえています。日本人の古典的な過激思想を持つ人たちは高齢化?が進み大学キャンパスからは姿を消しつつあります。そのため公安調査庁さんの関心事項も国際テロ対策のような方面にシフトし外国人学生・研究者の保有する銀行口座での資金の流れ等々に注目しています。で、筆者はというと(良い子ですので)、公安調査庁さんからの様々な照会にはどんどん情報提供するタイプ、そのためかどんどん仲良くなりました。仲良くなっていろいろお話してみると公安調査庁さんの困りごととして、大学へ様々な情報提供を求めても(任意でもあるので)対象者の個人情報をタテに協力してもらえないことが多いとのこと。これまで比較的協力的だった国立大学も法人化後は大学によっては断られることもしばしば。さらに警察と違い公安調査庁という名前自体ちょっと緊張感を与えてしまうのかもしれません。昨今、社会は個人情報管理に重きをおく方向に進んでいますので、大学という組織としても保有する個人情報の開示のガイドラインは、今一度考えておく必要があると感じました。なお、筆者が関わった公安調査庁さんの懸念事項は、話を聞くかぎり妥当性を有するものでした。

東京都立大学さんが偉いと思ったところ

大学の先生が、構内で襲われてケガをするなんてことは、日本では多く経験する話ではありません。ですので、日ごろの危機管理のトレーニングで稀の出来事でもしっかり対応できることが大切。メディアによる当時構内にいた人へのインタヴュー見ていると、事件後に構内放送が入り、事件の放送とともに、室内に施錠して留まること、移動する際は複数で行うこと等適格な指示が行われたようです。筆者の知っている大学だと、『どこに放送する機械あるねん?どうやったら動くねん?担当課はどこや?学生課?総務課?広報課?判断するんは誰なんや?』の時間消費になってしまってしまいがち。こんな話で大学の危機管理を評価する人は少ないと思いますが、咄嗟の出来事にちゃんと対応し次の被害を抑止できたことは日ごろのトレーニングの成果だと思います。

【写真】クイーンズ大の警報装置

クイーンズ大はオンタリオ州トロントのご近所、キングストンにある大学。キングストンは結構田舎っぽい町でそれほど犯罪発生率は高い感じはありませんが、それでもキャンパス内の各所に警報装置が立っています。この写真は20年以上前のものですがそれでも普通に設置してあります。また、以前 UC Berkeley のものもご紹介しました。広いキャンパスの多い北米ではよくある光景。これくらいは簡単に設置できると思いますので日本の大学にあっても良いと思います。

 Queen's Univ. @Kingston ON. CANADA (Negative Firm to Jpeg)

こちらはUC Berkeley のもの。終わりの方の写真をご覧ください

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