FOU’s blog

日本の大学 今 未来

国立大学の法人化前後の雰囲気を思い出してみる

時が流れ、国立大学で働いている職員の多くは国家公務員での採用者ではなくなってきています。それにつれ、法人化前の国立大学を知る人も減少中。新採に『わたし生まれてません』と言われてしまう日もそう遠くはありません。そんなで、備忘録的になんで今のような国立大学になったか、改めて思い出して考えてみます。お話は筆者のその当時の感じた一つの空気と今の国立大学があることとして感じていただければ。

国立大学をもっと自由に

法人化自体は、ご存じのとおり、2000年代初頭、小泉内閣時代に行われた行政改革の一環で実施されたもの、一番大きな改革は三公社五現業、特に郵政公社の民営化でしたが、各省庁にぶら下がっていたそれ以外の公団、金庫、特殊法人のような組織も構造改革行政改革という名目で官から民へ移管(民営化)されました。その際には、各省庁でたくさん実績を出さないといけないノルマ的なものがあったので文科省的には国家公務員の多い国立大学の法人化はマストの存在でした。

そのころ筆者は東京(文科省所管の法人)にいて、国立大学より早く法人化への移行を体験しました。当時、筆者のようなシモジモレベルがまず学ばないといけなかったことは、独立行政法人Independent Administrative Corporation/Organization の定義。その際の参考例として、欧米諸国の教育・研究機関で用いられている独立行政法人にどんなものがありどのように機能をしているかについての勉強、特に筆者の印象では、主にイギリスの独法を参考にしていたように感じました。この話だけウダウダ書いても冗長になりますので控えますが、総務省のHP(後述)をググれば文科省関係の法人化移行に関する考え方等を知ることができます。

筆者のいた法人は、組織替え第一弾のグループ(先行独法)の次のグループ(移行独法)で法人化するため、その準備として、文科省系先行独法(例えば大学入試センターさん)の状況を参考としながら規程整備を行っていたように記憶しています、が、所詮、他の法人とじゃ設置趣旨・事業内容等々がかなり異なるので、最終的には文科省の意向に沿い進んでいったものと思います。国立大学の法人化については、移行の手間暇と影響が大きいことからその次のグループとなりました。また、公立大学についても三位一体の改革(地方もやれ!)の影響で地方独立行政法人化(名称は公立大学法人を用いる)に移行する方向性が示されます。

で、国立大学側の反応。いつも何にでも反対する人たちはいつものように反対していましたが、旧七帝や有力どころの国立大学側からは、大きな反対の声はなし。むしろ期待する声も。このあたり仲良しの先生(旧帝大自然科学系分野の教授)とお話したことがありますが、曰く『うまく文科省に乗せられた』と、筆者もそう感じます。基本的に独法化は文科省所管の時代と比べて制度設計上様々なメリットがあるようにも感じられます。そのメリットばかりが誇張され、これからは大学の自由度が増すと楽観的。よく聞いたたとえ話として、給与体系も自由度が増し実力主義で能力のある研究者にはそれに応じた給料を支払われることが可能になる、海外から著名な先生を呼んで学長にできる、産学連携が自由できる、大学の研究活動の活発化で自主財源を得ることができる、大学の判断で授業料を上げたり下げたりできるetc 。文科省の説明には、ちゃんと中期目標をたて業務の効率化をしないといけないことも、運営費交付金は1年ごとに1%減額していくことともに書かれていたのですが、それくらい減っても今まで以上にお金のやりくりは自由になるし、外部資金が入るだろうから大丈夫、という安易な思い込みがあったのかもしれません。また、海外を見渡しても、イギリスやアメリカでも国直轄による大学管理ではなく資金をどこかに落として交付するスタイルがポピュラーなので、日本もそんなのになるんだな、と(安易に)考えていたとも感じます。確かにOxford Univ.UC Berkeley も 筆者が良く書くカナダのMcGill Univ. も、国・州からの資金交付の流れはあり、純粋に自主財源で自主運営している大学なんてないわけで、当時法人化を検討した大学幹部たちも(財布が違うだけで)そんなに悪い話ではないと理解したのだと思います。また、法人化前の国立大学の事務組織は、事務局長から筆者のような底辺まで、みんな文部事務官(文部科学事務官)でしたから、教員側も自分の教育研究に国からごちゃごちゃいわれなくてすむという思いもあったのかもしれません(なお、先生たちも文部教官の官職持ちでした)。

独法化前後の思い出あれこれ

旧国立大だったころって、日本の景気が悪いときは、政府の景気回復策が各省庁から降り、ハコモノ的な大学の建物の建て直しの予算が前倒しでついて工事なんかが始まるなんてよくある話。そんな牧歌的な時代から、法人化によって(なんだかよくわからないまま)変わっていきます。そのいくつか思い出のお話を。

インド哲学の先生の悩み

法人化前夜、帰りの電車でインド哲学の先生(なりたての助教授)とご一緒することがありました。先生には心配ごとがあり『将来大学が法人化される話が進んでますよね。そうなると一番先にクビになるのは私じゃないかと気になって…』と。その理由は、法人化されると経営効率が求められ、マイナーな不採算部門(インド哲学とか?)は整理統合の対象になるのでは、とお気にされ『まあ私たちは霞食ってる穀潰しですから…』とお嘆きになるので、筆者は(一応慰めに)『先生そんなことはありません。先生がいなくなったらパーリ語サンスクリット語で研究できる先生がいなくなるじゃないですか!』と(意味不明に)励ました記憶があります。

当時のメディアで、法人化されたらどうなる?で言われてたのがマイナー研究分野の行方。特に文学部全般や理系では理学部(特に数学分野)のようなぱっと見何をやっているのかわからない分野の将来を案ずる声がありました。結果的には旧七帝レベルではとりあえず講座閉鎖的な方向性には進まなかったと思います。さすがに、これをやると大学として学問の多様性を自ら切り捨てることになりますので。ただ、そうは言ってもコストカット的なこととして、共通教育系の常勤教員、理工系学部の技官的なポジション、学部の教室事務的なことをやっている事務主任さん的な人、助手ポストあたりは退職時補充なしのやり方で、気がつけばどんどん人は減っていった印象。反対に言えば、今現在は、人減らしは行き着いたので、足りない人材は、非正規雇用の方に依存する(良くない)大学の姿が出来上がったとも言えます。

国立大学のお話と違ってきますが、同じく法人化を進める公立大学。こちらも国立大学の法人化を参考に公立大学法人化を進めています。ただ、筆者目線でいうと、法人によっては憂うる状況に。地方の場合、大学の収入は、地方公共団体からの地方運営費交付金が基本になりますが、その効率化のやり方が国立大学以上に極端。(この場では時間を割きませんが)資金の面でも、人事的な面でも大学運営に支障をきたしていると感じます。どうも地方公共団体は高等教育への respect が欠けています。

fou.hatenadiary.jp

外部人材の活用

大学法人化が行われると、その象徴として、外部のその筋のプロを大学へ呼んで働いてもらう取り組みが流行。特に法人化早々の時期は、総合商社で海外経験豊富な人を国際交流課長にしてみたり、コンサルや情報関連企業の人を広報課長にしてみたり、人材派遣会社の人を就職課長にしてみたりと一時はブームになったのですが、次第に下火に。結局いろいろあってうまくいきませんでした。中には、大学名は出しませんが、首都圏にある旧帝大の副理事として採用され大学の経営改革を期待された外部人材の方が、痴漢行為で逮捕され大学を諭旨解雇される事件も加わりホントに外部人材って大丈夫なの?という懸念まで起こるしまつ。

外部人材とのミスマッチ、その理由は、そんな民間で大活躍の凄い人が大学にくるには給料が地味すぎる、スペシャリストすぎて他の部門へ異動できない、そもそも大学とは社風があわず学内で孤立化するetc。そんな人たちの功績といわれるものも大学の研究力でおいしい日本酒を作りました的なちょっとピントがズレ加減の情報発信が多かったように感じます。大学の情報発信、例えば大学広報、大学入試、研究成果などについて、たくさんの人に知ってもらうことについて、外部からそれらしいエリート?を一本釣りすればなんでも解決するほど甘い世の中ではなかったということを知る良い機会になりました。

まとめ

もう一度振り返ってみて、法人化以前の国立大学というものは、旧態依然としていたところがあり何らかの改革の必要はあったと感じます。ただ、運営費交付金の配分方法、中期目標の策定、認証評価で行う大学運営の縛りは海外の同タイプの大学と比べると大きく大学の独立性を妨げている側面も。法人化する前に思い描いていた給料が増えて、海外のノーベル賞級学者を学長に呼べるような話は本当に夢だったようです。誰が悪かった良かったのかも不明のまま勢いで出来上がった今の国立大学の姿は、人のお話をちゃんと聞かず妄想してしまった関係者たちの自業自得の結果であるということ、という整理で良いと思います。

冒頭でお話した資料。総務省のHPをググれば今でも独立行政法人に関する情報を知ることができます。

どちらも非常によくできた資料ですので是非ご一読ください

①平成21年文部科学省 高等教育局 国立大学法人支援課作成のポンチ絵資料。独法化のふりかえりにはとても良い資料だと思います。全体として読み応えがありますし、7ページの『国立大学法人独立行政法人の法制上の相違点』は国立大学職員は要暗記。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000464361.pdf

②こちらは日本における独立行政法人とは何ぞやの説明

https://www.soumu.go.jp/main_content/000339656.pdf