FOU’s blog

日本の大学 今 未来

違う話ばかりで肝心の獣医学部自体は大丈夫かを考えてみる

結局、学部を新設する際のミステリアスな経緯とその登場人物の豊富さで盛り上がったのですが、肝心の獣医学部の必要性云々については忘却の彼方へ消え去って行きました。政治云々の話よりなぜ獣医学部だったのかを今更ですが考えてみます。

獣医学部はどこへ行く

モリカケとかで騒がれていたのが2017年ではや5年過ぎてしまいました。盛り上がった内容は登場人物豊富の政治案件が中心。獣医学部のあり方自体については議論の片隅に追いやられてしまいました。結局認められた獣医学部は、構造改革特別区域構造改革特別区域に選定され今治にできた岡山理科大さんのみ。ここではそもそもの獣医学部について考えてみます。

地域偏在性が良くない

当たり前ですが、日本のどこにでも動物はいるわけで、豚コレラ鳥インフルエンザのような家畜伝染病の対応を都道府県なり市町村で家畜の病気への対応ができる専門知識を有する人材(獣医公務員etc)が今以上にいても(というか足りないので)良いと感じます。

現在の日本では、全体的に東日本に獣医学をやっている大学が偏り傾向。一番ひどい地域が関西で、大阪府立大学(獣医学類)の入学定員40名のみ。筆者の根拠に基づかない相場観ですが、関西圏で獣医師になりたい人がいても入学定員40人のみの狭き門。それも関空の対岸りんくうタウンという場所にキャンパスがあるのも(海外へ行くなら便利ですが)通学には辛いと感じます。ちなみにこの泉州地域は秋になると岸和田を中心にだんじりで盛り上がります。

同様に、四国エリア、今回新設された岡山理科大さんのが出来るまではゼロ。四国のうしさん、ぶたさん、にわとりさんが病気になっても四国の中には獣医師さんを育てる教育研究機関はなく、四国外に依存しなかればなりませんでした。方や対岸の山陽道には、岡山理科大に設置されましたが、学部自体は四国今治。広島にも無くて西端の山口大までありません。また、山陰地域の鳥取農学部にも獣医学分野はありますが、中国山地が隔てているので行き来は結構不自由があります。

募集定員の不可解さ

そもそもとても長い間、獣医学部の入学定員キャパが1000人未満なので、新設岡山理科大学さんの140人というのは(理由はよく分かりませんが)黒船襲来というか他の大学へは何かしらの脅威になるのだと思います。反対に言えば今の国立大学の場合、大学毎の募集人員が40名ほどでは、獣医学のフィールドだけで自立的に学部編成できず、他の大学と合わせて共同学科を編成せざるえない不可解な状況が続いています。もちろん薬学部のように作りすぎてボコボコになってはいけませんが、5年から10年くらいかけて徐々に定員を増やして、最終的に2倍増くらいにしても様々な社会的な要請に応えることができ、たくさんの人に喜んでもらえると感じます。研究分野全体としても、その定員増で今のような、農学部の一学科に甘んじている状態から一学部・一研究科に格上げができ、獣医学というフィールドのプレゼンスをも上げることが出来るのでないかと感じます。

全国の入学定員自体1000人を切ってますので、教育は、獣医学部という名前でやらず、特に定員に厳しい国立大では、農学部の中の一学科程度の存在。関西なら(設置の可能性があった)京産大さんや(日大さんはあるので)近大さんあたりで新設しても良いように感じます。その当時、経済特区での選定が岡山理科大さんにしか認めらなかった際、京産大さん側は、もう一校作るだけの教育研究資源が足りないという理由で追加応募を断念した(と言われている)のなら研究基盤の脆弱さについても考える必要が生じます。

漫画やアニメの業界で働きたい、声優になりたい等々の気持ちの強い若者のため、専門的に大学で学べるようなオンリーワン志向の大学であれば日本に数校で良いような気がします。一方、獣医学部については、全国で一定の需要があるのですから、一定数の大学があって教育・研究が行われている環境が保持される方が良いように感じます。ついでに獣医学部に動物看護師の学科なども附置すれば社会的な要請にもさらに応えられそうですし、(特に私学なら)大学の収益にもつながると感じます。

当たり前ですが獣医師は医師ではありません

お名前的に医師がついて、(動物)病院内にはCTやMRIがあって、手術着を着て、注射をしたり血液をとったり難しそうな治療をしています。ただ、一般の人が注意しないといけないのは、対象が人間以外の生き物であること。ですので、コロナのワクチン接種に助っ人として獣医師さんが応援に来てくれて、ワクチン接種のヘルプをすることはあり得ない。万一そんなことがあったら接種に来た普通の人もびっくりします。同様に、ご家族がご自宅で急に体調を崩しても、急患で犬猫病院の先生にお世話になる選択肢は考えられません。

このことを見つめてみると、獣医師という人たちは、例えば大学で医学部や歯学部の仲間とはちょっと違った存在であると考えられます。ですので、医学部の中に獣医学科が設置されることは(今のところ)絶対ありません。例えば、ブタさんの心臓を用いてヒトへの心臓移植に試みる場合も医学部の医師が全てのプロセスで中心となっていきます。ざっくりした説明ですが、獣医師さんの仕事を理解する上では大きなポイントであると思います。

獣医師会さんの強気が不気味

直接のリンクや引用はしませんが、公益財団法人日本獣医師会さんのHPには、私たちはしっかり自立的にやってますよ、ちゃんと自分たちやってるんだからみんなごちゃごちゃ言ってこないでください!的(に筆者には読める)なコメントと彼らなりのエヴィデンスで獣医学部の定員増についての否定的コメントが満ちています(関心のある人は直接読んでみてください。)。そんなんで獣医師業界への外部からの声にはなかなか耳を傾けてくれない体質を反対に良く表しているように感じます。

獣医師試験についても、これだけコミュニティが小さいと、今年は誰がどの問題出題しているか(薄々)分かってくるレベル。なんとなく緊張感に欠け国家試験で不正行為等々はないとしても何もかもがマンネリで新しいものが生まれる仕組みは生じそうにありません。

まとめ

いつものとおりまとまりませんが、大学職員で働いている人たちの中でも獣医学の分野のお仕事に携わること自体非常にまれ。一体どんなカリキュラムでどんな授業をやっているのかも知る機会も多くありません。今回の出来事は、大学における獣医師教育にスポットがあたる良い機会になりました。

Coffee Break

一つ目、この項を書くためにいろいろパラパラ眺めていましたが、一例として鳥取県にある一般向けの犬猫(動物)病院って結構しっかりしているな、と感じたこと。なぜ鳥取県を掘り下げたかというと、亡母方の田舎が鳥取県倉吉市ということもありました。例えばその倉吉の犬猫病院の先生が、現場レベルで治療方法に疑義があれば、近隣で相談できる専門研究施設(鳥取大学)があるというのは、獣医師の人たちも頼りになるんだと感じます。

なお、診療する生物をイヌ・ネコに限定しているところ(犬猫病院)がある一方、鳥、は虫類、カメetcまでよろず相談できる病院も結構あります。近隣住民の要請もあるのでしょうが、どんな生き物がやってくるか分からない大変なお仕事のようです。関心のある方はいろいろググってみてください。

二つ目は競走馬のお話。日本の競馬界はかなり世界に追いついてきました。このあたりは調教師さんの頑張りもありますが、裏方と言える獣医師さんたちの研究水準の向上も大きいと感じます。競走馬のトレーニング法、ノド鳴り喘鳴症)や屈腱炎のような競走馬としては不治の病といわれたものへの治療も進み、少しずつ光明が見えてきたように感じます。二つ目は読まれていて意味不明な方も多いかもしれませんが、見えないところで獣医師さんの存在は欠かせないということが書かれているとご理解ください。

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