FOU’s blog

日本の大学 今 未来

甲南大学 荒勝文策先生の系譜と今 未来

It makes a difference between universities な甲南大学

甲南大学の研究力と人脈のお話。荒勝先生がいたころから続く京都大学との良好な関係を考えてみます。 特に近年、以下の女性お二人の活躍は(大学受験生たちは知らないでしょうが)関西の中堅私立大学の教授としては(良い意味で)身分不相応な?なことが起こっています。

甲南大学の学長と他の学長を比べてみる 

 関学、関大、卒業生が学長に。そのまま他機関での経験もなくそのまま学内でのキャリアパスにより学長職までたどり着いています。他の方もそれぞれに魅力な学長さんだと思います。そんな中、甲南大学の2020年度から学長さんをやっている中井伊都子さんは京都大学法学部卒、ご専門は国際法学(国際的な人権問題の研究)。で、この人は別の大切なお仕事を拝命しています。それが国連人権理事会諮問委員会(Human Rights Council Advisory Committee)委員(2019年~)。この委員会は国連人権理事会への助言を行う非常の重要な機関で国連加盟国から18名選ばれたうちのお一人であり日本代表。通例で2期務めるようですので2025年あたりまでこの職につきます。また、学長就任時年齢が55歳とかなり若めなのでその後もいろいろ要職にに就くことが可能。それまでのお二人は神戸大学名古屋大学の出身者から選ばれていますので甲南大学法学部勤務の教授が選ばれること自体異例。関関同立産近甲龍の中には法学部自慢の大学がいくつかあったりしますのでこれは大きなインパクトを与える出来事だったと思います。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken_r/hrcac.html

https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/AdvisoryCommittee/Pages/Members.aspx

もうお一人は科研費政策に尽力

もうおひとかたは西村いくこさん、ご出身は阪大理ですが、その後は長く京大理で教授をやって荒勝先生のように席を甲南大に移します。植物の分子生物学のフィールドで非常に著名、それは十数年継続して研究代表者として基盤研究(S)や(A)クラスの科研費が採択され続けていることでもわかります。そして西村先生も中井先生も同様別のお仕事で存在感を示しています。それは科研費関係のお仕事、日本の文科省予算から交付される年間二千億円を超える科研費日本学術振興会が実質的に事業の全てのプロセスを担っています。審査の方法は、だいたい書面審査(ピアレビュー)で絞り込み、その中から専門的な知識を有する人たちが会合(合議審査)して最終決定していきます。(国際関係の事業は別に国際事業委員会という別の枠組みで決めることもあります。)全ての審査をする人は同じフィールドかつ中立的立場ので研究者が行う仕組みになっています。(例えば東大の先生からの申請なら東大以外の研究者が複数(だいたい6名)で審査します。)科研費はこのような仕組みで多くの審査を行う必要があるので巨大なデータベースの中から毎年7000人を超える研究者を選考し委嘱して審査体制を整えています。そのような仕組みのおおもとを担っているのが学振内にある学術システム研究センター(この組織自体も130名超の研究者の集合体)。その副所長をしているのが西村先生。学術システム研究センターには個別の科研費への審査権限はありませんが、このような巨大な科研費審査の公正で透明性の高い制度設計と見直しを継続して行うことに尽力されています。このような立場の人が(東大京大ならともかく)甲南大学にいることが自体が異例ということで、かなりご高齢なのに学長直属(特別客員教授というご身分で今も卒業(退任)できず?にがんばっていらっしゃいます。

興味のある人は、日本学術振興会→科学研究費補助金・学術システム研究センター でみてください

科研費のことは常勤の大学事務職員の人でも『知っている人もちょこっとだけ知っている』程度、詳しく分かっている人はほんとに少数。大学関係のブログでも話題にもなりません。日本の大学においては外部資金(と国際交流)のことをちゃんと知っている職員の養成はとても大切なことと感じます。

【写真】JSPSの入口    昔は千代田区一番町にあったのですが今は少し移転して麹町の綺麗なオフィスビルを使っています。JR四ツ谷駅に近い新宿通沿いでご近所には上智大学さんやホテルニューオータニさんがあるところ。また、よく学振がらみで会議を行う弘済会館さんもお隣になり便利になりました。

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お二人の様々な場での影響力を考えてみる

 まず中井学長、国連からどこにでもいける青いパスポートをもらえます(まあ国連職員ですから)。外務省へいく際、中に入るには手荷物検査場があってセキュリティチェックがあるのですが、アポさえいれてればスタッフがまっていてくれて顔パスで中に入れます(多分)。対応者も課長級以上、政務官さんや副大臣さんあたりともお話が可能な立場。また、法務省内閣府あたりともルートができていそう。大学関連なら海外の大学相手に国連人権理事会諮問委員会委員の肩書きを使えることも大きなメリット。この肩書きに敬意を表さない国・大学はありません。なお公平性を担保するために言うなら同志社大も中井先生とタイプは異なりますが女性学長が就任されています。ダイバーシティSDGsという言葉が認識され実践しないと行けない時代になり、特に大学はその象徴となり得る存在と言えます。こうした(学内で女性が活躍できる)風通しの良さは大学の運営・評価が高まる理由の一つと(筆者はオトコですが)感じます。 

西村先生は、とりあえず学振内に自分のイス机があります。学振と文科省は友好関係にありますので、研究振興局や高等教育局あたりに行くことがあったとしたら(多分)課長級以上が応接室で対応してもらえます。(私大の学長ご一行が文科省へ行っても待たされたあげく係長あたりの職員がざわつく課内の書類山積みのミーティングテーブルで短時間お話ししてサイナラというのはよくあることです。)また、国内の大学や理研産総研のような機関とも密接なお話が可能。また海外の学振同様のファンディングエージェンシー、NSF、CNRS、The Royal Sosiety、AvH等々とのパイプができることも甲南大学にとってもメリットの大きな話だと思います。 

今回の挙げたような関西圏の私大で働く女性研究者が日本の中枢で活躍できていることは、日本の教育・学術研究においても非常に良い出来事。いかに研究業績が優れていても、旧帝大出身のおじさまが中枢にいると『ああ~やっぱり…』的なイメージになるので、女性で、(これまでオトコ中心の)自然科学系の分野で、なおかつ名もなき中堅私大で、働く西村先生という存在は、現在の社会的要請の象徴として受入れ易かったのかもしれません。これは中井学長も同様です。また、甲南大とは直接のご縁はありませんが、関西圏がらみでいえば学振の監事をしている小長谷有紀さんも京大文ご出身で長く大阪の民博(万博公園太陽の塔のあるあたり)でモンゴル研究をされている(知る人ぞ知る)方。京大にゆかりがある女性たちの活躍というのは、何かのキーワードになりそうです。 

二つ偶然は続かない

若い人には気難しく冗長なお話を書いてきましたが、結びとして、このような文化があるところが甲南大の特色。このお二人を考えるにつけ関関同立あたりの重厚長大な大学たちとは異なる大学作りが行われている証左と筆者は考えます。そうでないとこのような役職につく人物が突如のラッキーで二人も現れることはありません。どうも関西圏での評判『甲南大の学生はおぼっちゃまでチャラい』というのは多少正しい気もしますが、大学本体と教員組織は真逆で非常にしっかりしている印象。筆者的には大学経営上採算性の高くはないと感じる、知能情報学部、マネジメント創造学部、フロンティアサイエンス学部のような(良い意味で)小粒で専門性の高い学部をキャンパスを含めて(西宮・ポートアイランド)作るところがチャレンジングに感じます。(北米の大学のHPをみればよく分かりますが(例えばグロスで)単純に1学部600人募集するのではなく、学ぶ学生へ様々なニーズにこたえられるよう多彩なプログラムを提供する方式の方が好まれています。また、一部の大学に見られる人件費抑制のため、定年退職したおじいちゃん教授ばかりを再雇用するようなことにも依存せず、京大を中心としたやるきのある若手の教員で固めていることも教育の質を高める要因になると感じます。

 京大との良いパイプ

 増井先生が甲南大にいた時代は、甲南大学で働くということは京大の研究者としては、即ドロップアウトした存在と見られていたのかもしれせんが、現在はそうでもありません。大学院重点化以来、京大など旧帝大においても、優れた研究をしていても自分の研究室から出て行かないといけない研究者が必ず出てきます。そのような研究者の受け皿として甲南大があるということは決して悪い話ではありません。実際、甲南大では文系・理系を問わず京大出身者が多くを占めています。教育研究のレベルで京大と友好関係にあることは教育の質を維持するためにも非常に役立ちます。

最近大学を選ぶ際気になること

予備校を中心とする受験産業界。一例をあげれば『(長年の研究でお魚の養殖がうまくいった大学があったとして)その波及効果で大学の偏差値が上がり受験生が増え上位大学に肉薄』的な分析を、特定の私立大学だけを切り取り(たかだか予備校模試に依存する程度の)エビデンス不明の偏差値情報に、したり顔の自称受験評論家が今年の受験傾向を占なうなんてなんて(韓国あたりはそんな傾向がありますが)北米・欧州の大学関係者にとてもとても恥ずかしくてお話できません。話は過去に遡りますが、筆者が大学受験をしている頃も首都圏の私立大学を中心に学部名に『国際』を付けるだけで集客を狙う大学がたくさん出てきている時機がありました。どうも日本の私立大学は未だ内向きでローカルネタと正体不明のメディア戦略で学生を集める性癖が続いている気がしてなりません。

筆者個人的には、関西圏の人たちはこのような偏差値序列の先入観から脱却し、関西以外の人たちは4年間過ごすには、とても楽しい阪急岡本界隈での生活を夢見て受験してみるのも良いと感じます。

甲南大学さんで回り道しましたが、このあともう少し海外の大学事情を考えてみます